排便の悩みは、非常にデリケートながらも健康を保つうえでは避けて通れない問題です。特に高齢者の便秘は、「歳のせい」と軽く見られがちですが、放置すると食欲不振や腹痛、さらには不穏や認知機能低下などのリスクがあります。
この記事では、なぜ高齢者が便秘になりやすいのかという原因を紹介するとともに、毎日の生活の中で無理なく実践できる生活習慣、食事、水分補給の具体的なポイントを解説します。

高齢期における便秘の特徴

便秘とは、何らかの原因によって便通の状態が悪くなり、本来体外に排出すべき糞便を十分に排出できない、または排出することが難しい状態を指します。一般的には、このような状態が3日間以上続くことを「便秘」と言います。

便秘は次の2タイプに大別できます。

  • 排便の回数や量はあるが、スッキリとした排便が難しい。
  • 排便の回数や量が少ないため、便が腸のなかに溜まる。

便秘によって腸のなかに便が溜まり、お腹に不快感を感じます。また、その他の疾患(後述)との関連が指摘されているため、放置は危険です。
厚生労働省の「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」によると、65歳以上の人の便秘の有訴者率は少なくない状況で、高齢期における便秘が他人事ではないことが分かります。
また、性別では女性が男性の約2倍ですが、高齢になるにつれて男性が増加する点にも特徴があります。

高齢者の便秘は危険!?

高齢期における便秘は、次の症状に繋がることがあります。

種類内容
食欲不振便秘による不快感から食欲の減退を招き、必要な栄養を摂取できず、結果として健康に悪影響を与える。
腹痛本来排出されるはずの便が腸内に残り、結果として腹痛を引き起こすことがある。
不穏お通じが無い日が続くと精神的に優れず、不穏状態になる可能性がある。不穏とは些細なことに怒り出したり、急に大きな声を出したりすること。
認知機能の 低下便秘によってストレスや睡眠不足となり、結果として認知機能の低下や認知症進行のリスクが高まる恐れがある。

参考:「便秘について 事業団だより」(公財)鳥取県保健事業団

便秘の主な原因

食事量の低下、食物繊維の不足

高齢になり食事量が低下したり、食物繊維の摂取が不足したりすることによって、整腸作用がうまく働かず、結果として便秘に繋がります。
なお、食物繊維には、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の2種類があり、どちらも適量を摂ることが大切です(後述)。

水分摂取量の不足

高齢者のなかには、喉の渇きを感じにくくなり、トイレへ行くことが面倒なため水分摂取を控える方が少なくありません。
このようなことから、体内の水分が不足し、腸内の水分吸収量が増えて、スムーズに移動できるくらいの柔らかさの便ができにくくなります。

腸の機能低下

高齢になると腸の機能が鈍くなり、腸から便を出すための蠕動(ぜんどう)運動が低下します。
これに伴って便が腸内に留まっている状態が長くなり、便から水分が失われ、結果として硬い便になってしまいます。

排便を我慢する習慣

排便を我慢すると、かえって便秘になります。高齢になり、身体を動かすことや、一つひとつの日常生活動作が面倒になることで、寒い時期にトイレへ行くことを我慢してしまい、結果として便秘に繋がる恐れがあります。

薬の影響・副作用

高齢者のなかには、持病があり日常的に服薬をしている方もいます。飲んでいるお薬の種類や内容によっては、その影響・副作用で便が出にくくなることがあります。
日本消化管学会の「便通異常症診療ガイドライン 2023- 慢性便秘症」では、慢性便秘症を起こす薬剤は多数存在するとし、その内容を紹介しています。
以下、その一部を紹介しますので、自身が飲んでいるお薬が該当するか確認しましょう。

薬剤種薬品名
制吐薬グラニセトロン、ラモセトロンなど
抗コリン薬アトロピン、スコポラミンなど
向精神薬抗精神病薬、抗うつ薬

出典:「便通異常症診療ガイドライン 2023- 慢性便秘症」日本消化管学会 編

便秘を解消・予防する生活習慣のポイント

適度な運動

適切な量と適度な強度の運動は、身体に良い刺激を与え、腸の動きを活発にさせます。なかでも、腹筋を中心とした体操やウォーキングがおすすめです。加えて、腹部のマッサージも、便秘解消・予防の効果が期待できます。

規則正しい生活

規則正しい生活は身体のリズムを整えるだけでなく、胃や腸を刺激し、排便を促しやすくなることに繋がります。適切な時間に起床し、1日3食を規則正しく摂取することが重要です。
また、快適な排便を促すためには快眠が重要です。加齢によって睡眠時間が短くなり、睡眠の質に満足がいかない方もおられます。日中、元気に活動して適度な疲れを感じる程度の活動をやってみると、快眠に繋がります。

適切な排便習慣

適切な排便習慣を心がけましょう。「面倒だから」「さっき行ったから」など、トイレへ行くことを我慢せず、決まった時間にトイレへ行く習慣づくりが大切です。朝の起床後、または朝食後にトイレに座る習慣をつけると、排便習慣を整えられやすくなります。なお、排便は2~3日に1回、もしくは週3回あれば正常範囲と言われています。自分にとって適切な排便の頻度はどれくらいか、主治医に相談して検討してみましょう。

排便時の座位、姿勢

トイレをする時の座位、姿勢を前かがみにすると排便がしやすくなります。前傾した座位姿勢では、直腸肛門角(直腸と肛門の角度)が排便をするうえで最も良い角度になり、便が出やすくなります(参考:「連載コラム 介護技術の基本 第11回:排泄姿勢」WAM-NET 独立行政法人福祉医療機構)。また、前傾姿勢ではお腹に力を入れて、力みやすくなります。個人でも簡単にできる工夫なので、すぐにでも実践してみましょう。

その他の工夫

上記のほか、個人でできる工夫には次のものがあります。

項目内容
排便に関するストレスを溜めない「毎日排便しなくてはいけない」や「何で出なかったのだろう」と思いが強くなると、かえってストレスが溜まってしまい、より便秘の状態が悪化してしまうことがに繋がるため。
寝る前の簡単なストレッチ寝る前にお布団の上で横になり、膝を立て、手を伸ばして手先と膝をタッチする。軽く上半身を起こして、腹筋を刺激することになる。

便秘を解消・予防する食事・水分摂取のポイント

食物繊維を摂る

食物繊維には、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の2種類があります。いずれもバランス良く適量を摂ることが大切です。以下、特徴や食材・食品を紹介します。

種類特徴、食材・食品
水溶性 食物繊維便を柔らかくし、腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整える。
・果物
・ニンジン
・キャベツほうれん草
・海藻類 ほか
不溶性 食物繊維便の量を増すことで腸管を刺激し、腸を活性化させ便通を整える。
・根菜類
・キノコ類
・繊維の硬い野菜(たけのこ等)
・豆類 ほか

参考:「便秘について 事業団だより」(公財)鳥取県保健事業団

ただし、食物繊維の過剰な摂取はかえって便が腸内に留まるリスクを高めることがあるため、適量摂取(25g/日)を心がけましょう(出典:「日本人の食事摂取基準(2025年版)の策定ポイント」厚生労働省)。

腸内環境を整える発酵食品を摂る

ヨーグルト、納豆、キムチなどの発酵食品は腸内環境を整える作用があり、排便の促進に期待ができます。過剰に摂取することは良くありませんが、適量を摂ることで腸の動きを活性化させ、便秘を解消することに繋げましょう。

水分補給の工夫

喉が渇きを感じていない状態でも、こまめに水分を摂取するようにします。一度に多くの水を飲んだとしても、その多くは体内に吸収されず排出されてしまうので、少しずつ頻繁に飲んでいくと良いでしょう。
水分量の目安は1日あたり1.5〜2Lです。まずは起床時にコップ1杯を飲み、腸を刺激すると良いです。その後、食事と食事の間や、食事中などにこまめに摂ることを心がけましょう。

病院受診を検討

自宅での食事や生活習慣の改善を試みても便秘が解消しない場合、または以下の特定の症状が現れた場合は、必ず医療機関の受診を検討してください。

  • 激しい腹痛
  • 腹部が異常に膨らんでいる
  • 腹部が硬く張っている
  • 便に血が混じっている など

高齢者の便秘は、単なる体調不良ではなく、他の重篤な疾患や、服用している薬の副作用が原因である可能性もあるため、専門医による診断が不可欠です。

まとめ

この記事では、高齢期の便秘について解説してきました。

高齢期における排便は、生活の質を左右する重要な問題です。適切な水分摂取、食事の改善などによって便秘を予防・解消することはできますが、これらの工夫を続けてもなお、改善が見られない場合や、異変を感じた場合は、遠慮なく主治医や消化器内科を頼ってください。適切な医療と生活の工夫で、ストレスのない排便に繋がるようにしましょう。

参考文献

  1. 「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」厚生労働省
  2. 「便秘について 事業団だより」(公財)鳥取県保健事業団
  3. 「便通異常症診療ガイドライン 2023- 慢性便秘症」日本消化管学会 編
  4. 「連載コラム 介護技術の基本 第11回:排泄姿勢」WAM-NET 独立行政法人福祉医療機構
  5. 「便秘について 事業団だより」(公財)鳥取県保健事業団
  6. 「日本人の食事摂取基準(2025年版)の策定ポイント」厚生労働省
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