排泄介助に使用する代表的な福祉用具がポータブルトイレ。
弊社製品「ラップポン」シリーズもポータブルトイレに含まれます。
一般的には馴染みの薄い用具ですが、どのようなものなのでしょうか?
今回はポータブルトイレについて解説していきます。
Contents
ポータブルトイレとは?
ポータブルトイレは個室トイレ以外の場所にも設置可能な簡易トイレのことです。
・個室の水洗トイレへ移動するのが難しい
・歩行速度が遅くなりトイレまで間に合わない
・ふらつきがあり移動中に転倒の恐れがある
など、個室トイレで排泄することへのリスクが高い方が使用します。
ポータブルトイレは排泄に使用する用具なので、椅子のような形をしています。
トイレの便器と同じように中心には便座があり、便座の下には排泄物を受け止めるためのバケツが設置されていることがほとんどです。
また、座った時に姿勢の保持がしやすいよう、多くの製品には背もたれや肘掛がついています。
ポータブルトイレの機能
基本機能に加えて、福祉用具は各個人の身体機能に合わせた便利な機能が搭載されています。
ポータブルトイレは搭載されている機能や特徴に応じて、いくつかの種類に分類することができます。
肘掛を跳ね上げ・取り外し・昇降できるもの
肘掛が可動式になっており、移乗するときは障害物とならないように肘掛を椅子の横から逃がすことができます。
排泄時は姿勢を支えるために元の位置に戻し、肘掛けとして使います。
椅子、肘掛の高さ調整ができるもの
利用者の体格や身体状況に合わせた微調整が可能です。
便座のタイプが選べるもの
- お手入れしやすい樹脂(プラスチック)製
- 柔らかい肌当たりで長時間座りやすいウレタン製
- 寒い季節でもお尻がひんやりしない暖房便座
- 陰部洗浄がしやすいシャワー機能付便座
などがあります。
脱臭機能がついたもの
気になる排泄臭を吸引して設置場所に残さないような装置が付いたものがあります。
バケツを洗わないもの
- 排泄処理袋と呼ばれる袋をバケツに被せて袋の中に排泄をすることで袋ごと処分するタイプ
- 自動ラップユニットを搭載して排泄物を袋の中に密封するタイプ
- ポンプなど配管工事をして個室トイレ以外にも設置できる水洗ポータブルトイレ
などがあります。
いずれもバケツを洗う労力や排泄物の臭い軽減に大きな効果があります。
その他の機能
- ひじかけの長さ調整(つかみやすい)
- キャスター付(ポータブルトイレを移動しやすい)
- 便座の角度調整(排泄姿勢が取りやすい、立ち上がりやすい)
- 座面・便座穴の幅(体格や排泄姿勢に合わせたサイズが選べる)
- 便座の抗菌加工(お手入れしやすい)
など、排泄やトイレ本体の維持管理がしやすくなる様々な工夫がポータブルトイレには施されています。
ポータブルトイレのメリット・デメリット
ポータブルトイレを使うメリットとしては
- 排泄の自立度を維持し、介助量を少なく出来る可能性がある
- 「トイレで排泄する」生活習慣を継続できる
- 自分で排泄する尊厳を守れる
- 近くにトイレがあることで不安を和らげる
- 座ると排泄しやすい姿勢を取ることができ、スムーズな排泄ができる
といったことが挙げられます。
一方デメリットとしては、
- 排泄物の処理に肉体的・精神的な負担がかかる
- 設置場所の衛生面や臭いが気になる
- 「個室トイレ以外の場所での排泄」に抵抗がある方もいる
といったことが挙げられます。
ポータブルトイレの素材
搭載されている機能の他に、ポータブルトイレに使われている素材も、使い心地や商品金額を左右します。
樹脂製のポータブルトイレ
ポータブルトイレの素材として最もポピュラーなものは樹脂(プラスチック)です。
水洗いがしやすく比較的軽量・安価なのがメリットです。
ポータブルトイレは衛生用品ですので、汚れても水洗いやアルコールなどでの消毒がしやすいのは大きな利点となります。
また機能やデザインなどの種類が豊富で選択肢が多いことも利点として挙げられます。
デメリットとしては耐久性と、軽量であるがゆえの不安定さです。本体重量が軽量なものだと約3kg、重くても約10~15kg程度の製品が多いので、片麻痺の方など肘掛に体重をかけて座りたい場合にバランスがとりにくい可能性があります。
金属製のポータブルトイレ
軽量かつシンプルなものとしてスチール・アルミなど金属製のタイプがあります。
金属製のポータブルトイレは「コモード型」とも呼ばれます。
パイプを組み合わせたような形状のためパーツが少なく、トイレ本体のお手入れは最もしやすいです。
シンプルな形状が故に最も「トイレっぽい」見た目をしており、居室など設置場所との調和が難しい点がデメリットです。
木製(家具調)ポータブルトイレ
ポータブルトイレとして使用しない時には便フタを閉めることで椅子のようになり、居室の雰囲気を損ねにくい木製のものもあります。
木製のポータブルトイレは椅子のよう=一般的な家具のように見えることから「家具調ポータブルトイレ」とも呼ばれます。
このタイプの便フタにはクッションがついており、実際に椅子として使用することも可能です。
便フタを持ち上げることで便座が露出し、トイレの機能を果たします。
木製のメリットは前述の居室の雰囲気を損ねにくい点に加えて、重量があるので安定感がある点です。木製タイプの重量は約15~20kg程度のものが多いので、立ち座りが不安定な方でもしっかりつかまりながら動作を行えます。
デメリットは、比較的高価であることと、特に木製部分のお手入れ方法が限られてしまうことです。
便座やバケツなど汚れやすい部分は樹脂製(便座は前述の通り樹脂以外の製品もあります)なので水洗いや消毒も簡単です。
しかし、椅子本体の木製部分は水分が染み込んで素材を痛める可能性があるため多量の水で洗い流せません。
汚れが付着した場合は可能な限り速やかに乾いた布やペーパータオルで拭き取る必要があります。
ポータブルトイレを選ぶポイント
ポータブルトイレを選ぶ際、まず考慮しなければならないのが「利用者本人の身体能力」です。トイレでの排泄に必要な動作は
- 立ち上がる
- 座る
- 歩く
の3つです。この3つの動作がどのくらい可能なのかで必要な機能が変わります。
身体の残存能力・体格に合わせたサイズを選択する
まずは身体能力に合わせた機能が付いたトイレを選んだうえで、体格に合わせたサイズであることも重要なポイントです。
例えば、
- 小柄なので床に足を着けて排泄姿勢をしっかり取れるように、椅子の高さが低めのものが良い。
- しっかり立位が取れず、介助者の支えをもらってベッドサイドで座位で移乗したいので、肘掛可動式が良い。またベッドサイドにトイレを置くため臭いが少ないものが良い。
- 短距離なら安全に移動できるので廊下に置けて動かしやすいサイズのものが良い
という風に考えて商品を選定していきます。
住環境に合わせた機能を選択する
同じく重要なのが、住環境(介助者のマンパワー含む)です。
例えば、
- 寒い地域なので暖房便座タイプが良い
- 夜間で介助者が休んでいる時間帯に頻回使用がありすぐに片付けが出来ないので、バケツ清掃が不要なものが良い
- ベッド近辺にあまりスペースがないのでコンパクトなタイプが良い
といった観点を考慮します。
その他に考慮すべき条件
既出の項目を重視しつつ、以下の条件にも合致する商品があれば、最善の選択といえるでしょう。
- 予算
- 見た目、色などデザイン
- 在庫状況(入院していた家族の退院日が決まった、などで必要な日までに届くかどうか)
ポータブルトイレの使用方法
ポータブルトイレの使用方法は、バケツの有無で若干異なります。
排泄前
ポータブルトイレで排泄する前に、バケツタイプのトイレの場合は予めバケツに水を張っておきます。
水を張ってあるとバケツに排泄物が付着しにくく掃除がしやすくなります。
排泄物の臭いも広がりにくくなるので、忘れずに入れましょう。
各メーカーから発売されている消臭剤を水と一緒にいれるのも効果があります。
排泄処理袋を使用する際や自動ラップ式のトイレの場合は、予め袋となるものをセットしておきます。水分を固めるための凝固剤も排泄前に入れる方が入れ忘れを防止できます。
排泄時
実際の排泄は、個室の水洗トイレとさほど変わらない感覚で行えます。
移乗・立ち座りなど安全に気を付けてゆっくり動作するようにしましょう。
なお、安定した姿勢を保つために男性の小便の場合も座ることがほとんどです。
排泄後
バケツタイプの場合はバケツの掃除が必要です。
トイレ本体からバケツを取り出し、個室のトイレまで運びます。
この時に付属のバケツフタを使用すると運搬時の飛び跳ねや臭いの広がりを防止できます。
トイレへ着いたらバケツの中身を便器に注いで流しましょう。
空になったバケツをお風呂場などで洗って汚れを落とし、よく水気を切ってから再びポータブルトイレにセットします。
排泄処理袋タイプの場合は、バケツから袋を取り外して口をしっかり結んで処分します。
排泄処理袋と自動ラップタイプの排泄ゴミは「紙おむつ」と同様の処分が可能です。
この時、凝固剤が十分な量投入されていないと排泄物の水分が固まらずそのまま残ってしまいます。
水分が残っていると「紙おむつ」として処分が出来なくなりますので、水分が残っている場合は凝固剤を追加投入します。
自動ラップタイプの場合、トイレ本体のボタンを押してラップユニットを作動させます。
処理が完了すると椅子部分の下から排泄物が密封された袋が落ちるので拾って処分します。
こちらも水分が残っている場合は密封処理をする前に凝固剤を追加しましょう。
ポータブルトイレが購入できる場所
ポータブルトイレを購入出来る場所についてもご紹介します。
※なお、ポータブルトイレは衛生用品のためレンタルすることは出来ません。
福祉用具販売店
「福祉用具専門相談員」という公的資格を持ったプロフェッショナルが必ず在籍していますので、利用者本人に合う製品を実際に試しながら適切に提案してもらえます。
また介護保険を利用して購入する場合は都道府県に認定された事業所で購入する必要があるため、特別な事情がなければこちらで購入することが一般的です。
製品の故障やメンテナンスなども対応してもらえます。
ホームセンター・デパートなどショッピングセンター
おむつ、杖、シルバーカーなどを中心に様々な福祉用具が取り扱われています。
トイレはシンプルなタイプのものが販売されている場合があります。
こちらも実物を見ながら選定でき、店員さんが相談にのってくれる場合もありますが、介護保険の事業所ではないため介護保険を利用して購入することはできません。
インターネットショップ
Amazonや楽天など大手モールでも福祉用具を販売するショップが増えました。
自宅まで商品を届けてくれる点や、実店舗より若干安価で購入できる場合もあることが利点です。
また実店舗より豊富なラインナップがあることも多く、幅広い製品の中から選ぶことが出来ます。
気軽に利用できる半面デメリットも多く、実物を見ることが出来ないため利用者本人に合うサイズ感か?など重要なポイントの確認が出来ません。
介護保険利用も不可です。
アフターフォローなども購入者が自分でメーカーに問い合わせるなど自発的な行動が必要です。
最後に
ポータブルトイレと聞くと、どうしてもの非常時やおむつ使用までの繋ぎなど「一時的な利用」というような簡易な印象を受ける方もいるかもしれません。
しかし、弊社が実施したインターネットアンケート(現役ケアマネージャー対象)によると、約半数が「ポータブルトイレを1年以上使用した」と回答しています。
排泄は複数の動作を組み合わせて全身をバランスよく使用する行為です。
適切なポータブルトイレの使用は利用者本人のADLの低下予防に繋がります。
メリット・デメリットをよく理解・検討して、ポータブルトイレの導入によって良い効果が得られるような排泄介助を目指しましょう。