災害が発生したとき、多くの人が見落としがちなのが「トイレ問題」です。
食料や水の備蓄には気を配っていても、トイレについては十分な準備ができていない方がほとんどではないでしょうか。
実は、避難所でのトイレ問題は想像以上に深刻で、適切な対応ができないと健康被害や感染症のリスクにもつながります。
本記事では、災害時のトイレ問題の実態から具体的な対策まで、詳しく解説します。

災害時は水洗トイレが使えないって本当?

「災害時に水洗トイレが使えなくなる」という事実をご存じでしょうか。
実は、多くの方がこの重要な情報を知らないまま、災害を迎えてしまうのが現状です。

なぜ水洗トイレが使えなくなるのか

災害発生時、水洗トイレが使用できなくなる主な理由は大きく分けて以下の2つです。

水が出なくなる

給水管などの給水装置が破損したり、停電で給水のためのポンプ等の設備が作動しなくなると、水が届かなくなります。

水が流せなくなる

水が出たとしても、水を流せなくては、水洗トイレは使えません。
排水管や下水道が損傷し機能しなくなれば、排水が正常に行われなくなります。そのような状態で排泄物を流すと、どこからかあふれることになります。

「近隣のコンビニを使えばいい」という誤解

ある調査で「災害時のトイレはどうしますか?」という質問をしたところ、若年層で最も多かった回答が「コンビニでトイレを借りる」だったといいます。
しかし、考えてみてください。地域一帯で災害が起こっているのに、自宅のトイレが使えない状況で、隣のコンビニが使えるはずがありません。
これは「日本では清潔なトイレがいつでも無料で当たり前のように使える」からこそ起こってしまう認識不足なのです。
このような誤解が、災害時のトイレ問題を深刻化させる最大の要因となります。
「災害時には水洗トイレが使えなくなる」という基本的な知識を、一人でも多くの方に知っていただく必要があります。

避難所でのトイレ問題

災害時のトイレ問題について基本的な認識が低いことが、避難所でのさまざまな問題を引き起こしています。
具体的にどのような問題が発生するのか見ていきましょう。

水洗トイレを使ってはいけないのに使ってしまう問題

災害直後、水洗トイレを使えないことを知らず、水洗トイレを使ってしまうケースが後を絶ちません。
また、トイレは食べ物と違って我慢できないという特性があります。食事は数時間、場合によっては数日我慢することもできますが、排泄は生理現象であり、タイミングをコントロールすることはできません。
そのため、代替となるトイレが用意されていなければ、使ってはいけないと分かっていても水洗トイレを使わざるを得ない状況に追い込まれてしまうこともあります。

排泄物が処理できないことで起こる二次被害

水洗トイレを水が流れない状態で使用してしまうと、排泄物が流れず、便器に溜まっていってしまいます。
この状況が続くと、以下のような深刻な二次被害が発生します。

  • 衛生環境の悪化:排泄物から発生する悪臭や汚染が避難所全体に広がります
  • 感染症のリスク増大:細菌やウイルスが繁殖し、ノロウイルスやO157などの感染症が蔓延する危険性が高まります(水や消毒液が不足することによる不十分な手洗いのほか、汚れたトイレの床を踏んだ土足で生活スペースへ進入することなどでもウイルスを持ち込んでしまいます。)
  • 使用不可能なトイレの増加:一度汚れてしまったトイレは使用できなくなり、トイレ不足が深刻化します

災害用トイレの使い方がわからない問題

水洗トイレを使ってはいけないことを知っている人は、備えていた災害用トイレの出番だ!と早速取り出すことでしょう。
しかし、多くの人にとって初めて使う災害用トイレ。
使い方は?設置方法は?どんな場所で使えるの?使ったあとはどうしたらいいの?
じっくり説明書を読む余裕もなく焦って失敗してしまったり、使い方が周知されず分からなかったために排泄後に片付けないで立ち去ってしまうケースも散見されます。こうなってしまっては水洗トイレを使ってしまった場合と同様、排泄物が処理できていない状態となり、二次被害を引き起こします。

トイレの重要性

なぜこれほどまでにトイレが重要なのでしょうか。単なる生活の不便さだけでなく、トイレ環境は避難者の健康と生命に直結する重大な問題なのです。
トイレ環境が劣悪だと、避難者は以下のような行動をとりがちになります。

  • トイレに行く回数を減らすために水分摂取を控える
  • 食事を控える
  • 排泄を極限まで我慢する

これらの行動は、脱水症状やエコノミークラス症候群など深刻な健康被害につながります。

人間の尊厳を保つ上でも、トイレ環境は極めて重要です。
不衛生なトイレ、プライバシーが守られないトイレ、長時間待たなければ使えないトイレは、避難者のストレスを著しく増大させます。排泄という人間にとって最もプライベートな行為が、尊厳を保てない環境で行わざるを得ない状況は、被災者の精神的な負担となります。
災害という非常時だからこそ、人間の尊厳を守れる環境を整えることが大切になります。

トイレ問題に対する対策

では、これらの深刻なトイレ問題に対して、どのような対策を講じるべきなのでしょうか。
具体的な対策を説明します。

事前の訓練と周知の徹底

最も重要な対策は、事前の訓練と周知です。
多くの人が子どもの頃に経験した避難訓練は、校舎から校庭へ「避難する」ことだけに焦点が当てられていました。
しかし、実際の避難生活では、避難した後の生活も非常に重要です。

効果的な避難訓練には以下の要素を含めるべきです。

・水洗トイレが使えなくなることの説明

水洗トイレを使ってはいけないこと、なぜ使ってはいけないのかを説明し、理解してもらうことで、災害時の適切な行動につなげます。

・携帯トイレや簡易トイレの使用実習

実際に手を動かして使用してみることで、いざという時に慌てずに対応できます。見たことがあるだけでは不十分で、一度もやったことがないことは、非常時にはできないものです。

・避難所での生活全般のシミュレーション

トイレだけでなく、避難所でのベッドの設営なども含めた総合的な訓練が効果的です。
ただし、このような包括的な訓練の実施状況は、市町村や学校によって大きく異なるのが現状です。地域住民が主体的に働きかけ、実践的な訓練を求めていくことも重要です。

公助・共助・自助の連携による対策 

災害時のトイレ問題に対応するためには、公助・共助・自助の3つが連携して、何が必要かを把握し準備することが重要です。

公助:公的機関

備蓄用のトイレを購入し管理するのは、主に自治体の役割です。仮設トイレの手配や配備計画の策定、災害時の迅速な対応体制の構築など、公的な支援体制を整えておく必要があります。
ただし、災害発生時に自治体の方が全てのエリアにすぐに駆けつけ、水洗トイレを封鎖したり、携帯トイレを配布したりすることは困難です。そのため、地域コミュニティとの連携が不可欠となります。

共助:居住地域

それぞれの地域ごとで、災害が起こったら、まずトイレは使えないという認識のもと、
水洗トイレを封鎖して携帯トイレで対応していくというアナウンスを行うなど、住民間での連携がが必要になってきます。

自助:自分・家族

各家庭での携帯トイレや簡易トイレの備蓄は、最も基本的かつ効果的な対策です。
最低でも1人あたり1日5回×7日分=35回分の携帯トイレを備蓄することが推奨されています。
自宅だけでなく、職場や車の中にも携帯トイレを常備しておくと、より安心です。

災害用トイレの種類 

災害用トイレには様々な種類があり、それぞれに特徴と用途があります。状況に応じて適切なトイレを選択・使用することが重要です。

各種類の特徴は以下の通りです。

トイレの種類設置場所主な特徴適した場面・対象者
携帯トイレ室内 ・袋と凝固剤がセットになった、最も手軽で個人での備蓄に適したトイレ
・既存の洋式便器に取り付けて使える
・すぐ使用開始できる
・災害発生直後の初期対応
・個人、家庭での使用
簡易トイレ室内・簡易的な便器と袋、凝固剤がセットになっている
・携帯トイレと同じ使い方のものや、ラップ式など処理方法は様々
・既存の個室やパーテーション
・テントで区切ってトイレスペースを作れる。
・災害発生直後の初期対応
・室内用トイレの造設
・屋外トイレが使いづらい要配慮者対応
仮設トイレ屋外・工事現場やイベントで見られるようなトイレ
・鍵をかけることができる
・排泄物はバキュームカーで汲み取る
・多人数対応が可能
・中長期的な避難生活
・支援者、運営スタッフ も利用しやすい
マンホールトイレ屋外(マンホール上)・下水道管に直結する災害用トイレ
・排泄物が直接下水に流れる
・衛生的で臭いが少ない
・屋外トイレの中ではバリアフリー化しやすい
・下水道が無事な避難所
・長期的な避難生活
トイレカー屋外・車の荷台やトレーラー式で機動力がある
・個室内が広く設備も充実しており快適性が高い
・大規模避難所
・長期的な避難生活
・十分なスペースがある場所

 

このように、災害用トイレには様々な種類があり、使う人や災害の状況によって適切なトイレが変わってきます。携帯トイレのような手軽なものが活躍する場面もあれば、マンホールトイレが最適な場合もあります。

災害時には、これらを適切に組み合わせて使用することで、より効果的なトイレ環境を整えることができます。

スフィア基準とトイレの数

避難所でのトイレ設置には、スフィア基準という国際的な指標があります。
これは、難民キャンプにおける人道支援の質に関する基準であり、それを日本では災害現場の環境整備基準として参照しています。世界的な人道支援の最低基準を定めたもので、トイレについては50人に1台の水洗トイレがあれば、なんとか避難生活を送れるとされています。
しかし、国内での調査結果では、25人に1台程度あれば、ストレスなく避難所の運営ができたという報告もあります。この数字は一つの目安として、各避難所での設置計画に活用されるべきでしょう。
ただし、高齢者や障がい者など通常よりも時間がかかる方の利用も考慮し、十分な余裕を持った数を確保する必要があります。

年齢や性別などによって配慮する事項について

避難所でのトイレ対応は、すべての避難者に画一的に行えばよいというものではありません。年齢や性別、身体状況などによって、個別の配慮が必要になります。
避難所には、乳幼児から高齢者まで、また健常者から障がいのある方まで、多様な人々が共に生活します。

特に配慮が必要な主な対象者として、以下のような方々が挙げられます。

  • 乳幼児や子ども
  • 高齢者
  • 妊産婦
  • 障がいのある方
  • 疾患を持つ方
  • 言語やコミュニケーションに配慮が必要な方

年齢と性別だけでは足りず、障がい、言語、持病なども含めて配慮していく必要があるのです。

女性への配慮

女性には生理用品の処理、着替えなど、男性とは異なる特有のニーズがあります。トイレに関しても細やかな配慮が必要です。

  • トイレまでの動線の安全確保(夜間の照明など)
  • 生理用品の処理方法の明確化と専用ゴミ箱の設置
  • 清潔さの維持

特に、女性が夜暗い中外のトイレに行くのは危険であり、安全性の確保は最優先事項です。

子どもや高齢者への配慮

子どもは大人用のトイレでは使いにくく、高齢者は移動に時間がかかったり、洋式でなければ使用できない場合もあります。

  • 子ども用の補助便座の用意
  • 洋式トイレと和式トイレの適切な配分
  • トイレに近い場所への居住スペース確保
  • 手すりの設置

障がいのある方や疾患を持つ方への配慮

車いす利用者、視覚障がいのある方など、それぞれに異なる配慮が必要です。

  • 多目的トイレの設置(車いすでも利用可能な広さと設備)
  • 分かりやすい案内表示(音声案内や点字表示)
  • 介助者が同行できるスペースを作る

トイレ問題は避難所運営全体の中でも特に配慮が必要な分野であり、画一的な対応ではなく、個別のニーズを丁寧に聞き取り、柔軟に対応していく姿勢が求められます。

まとめ

避難所におけるトイレ問題は、単なる設備不足という表面的な問題ではなく、災害時にトイレが使えなくなるという認識不足、事前準備の欠如、個別配慮の難しさなど、複雑な要因が絡み合った深刻な課題です。しかし、適切な知識と事前の備えがあれば、多くの問題は軽減できます。

各家庭での携帯トイレの備蓄、地域での実践的な避難訓練への参加、
そして一人ひとりが「災害時には水洗トイレが使えなくなる」という認識を持つこと。
これらの小さな積み重ねが、いざという時の大きな違いを生み出します。

災害はいつ起こるか分かりません。
明日、あなたがトイレに困る立場になる可能性もゼロではないのです。
この記事を読んだ今日から、ぜひトイレ対策を始めてみてください。

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