高齢化が進む現代において、認知症は誰もが向き合う可能性のある身近な問題だといえます。
しかし、誤った情報や漠然とした不安から「どう接したらいいかわからない」と悩む方も少なくないでしょう。
認知症を患っていても、その人らしい生活を支えるためには、まず認知症を正しく知り、種類や特性に合った対応をすることが重要です。この記事では、認知症の基礎知識を紹介するとともに、認知症ケアにおいて大切なことを解説します。
Contents
認知症とは
認知症の概要
政府広報オンラインでは、認知症を次のように説明しています。
| 「認知症」とは、様々な病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に変化し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障を来した状態 |
出典:「知っておきたい認知症の基本」政府広報オンライン 内閣府
端的に言えば、認知症とは加齢による記憶力や判断力の低下によって、自立した日常生活を送ることが難しくなる病気です。以前は「痴呆症」や「呆け(ぼけ)」などと形容されていましたが、厚生労働省は2004年12月に『「痴呆」に替わる用語に関する検討会報告書』を発表し、その名称が「認知症」に統一されました。
日本 では高齢化の進展に伴って、認知症と診断される方が増えています。厚生労働省は「認知症及び軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」にて、2022年度における認知症高齢者数を443.2万人とし、有病率12.3%と発表しました。
これによると、認知症と軽度認知障害(MCI:認知症になる恐れのある状態)の合計値は約28%であり、高齢者の3人に1人が認知症、またはその予備軍であることが分かりました。この現状から、認知症と高齢者介護は切っても切り離せない問題だといえます。
認知症の種類
認知症には、幾つかの種類があります。以下、それぞれの原因、特徴、主な症状を整理して説明します。
| 種類 | 特徴・内容 |
| アルツハイマー型認知症 | 脳内に異常なたんぱく質が溜まり、脳の萎縮が起きて認知機能障害が出るもの。認知症の種類のなかで最も多い。ゆっくりと進行するため早期発見が難しい。 |
| 脳血管性認知症 | 脳血管障害(脳梗塞や脳出血など)によってダメージを受けた部位が正常に機能せず、結果として認知機能障害が出るもの。できること、できないことの偏りが生じる。 |
| レビー小体型認知症 | 脳内に異常なたんぱく質が出て、それが脳の神経細胞を壊し、結果として認知機能障害、幻覚やパーキンソン症状(指先の震え、動作が遅い、身体のバランスが取りにくくなるなど) が出るもの。 |
| 前頭側頭葉変性症(ピック病) | 初老期に発症し、人格保持が難しく、問題行動を起こして、社会生活を送ることが難しくなる。異常なたんぱく質の蓄積が原因の一つと言われているが、明確な原因は分かっていない。 |
認知症は認知機能の障害ですが、その種類によって特徴が異なり、それに合わせた対応が必要となります。
認知症の中核症状
認知症の患者の多くに現れる障害を、中核症状といいます。
以下、一つずつ紹介します。
記憶障害
先ほど覚えたものをすっかり忘れてしまうというものです。加齢による物忘れは、ヒントを与えると思い出しますが、認知症の場合は、さっき経験したことを全てを忘れてしまいます。つまり、「忘れたことすら忘れてしまう」という状態です。
見当識障害
今、自分がどこにいるのか、何時ぐらいであるのかということが分からなくなります。自分の家にいても、「帰宅する」と外出しようとしたり、慣れた道にいても迷ってしまったりする症状です。
判断力低下
認知症になると、素早く判断するということが苦手です。たとえば、車の運転などはいい例です。運転は道路状況や周囲の様子を把握しながら、状況に応じて咄嗟に判断して実行するという複雑なプロセスを踏みます。よって、状況に応じた運転ができない、買い物で必要なものだけを購入することができないなどがあります。
言語障害
脳梗塞などが要因となる脳血管性認知症では、言語障害が現れる場合があります。言葉が出ないうえに相手の言うことが理解できなかったり、自分の言葉は出るものの、相手の言葉の理解が難しかったりするなど、様々な症状が出ます。
失行(しっこう)
道具を上手に使うことができない状態です。たとえば、衣服を正しい方法で着ることができない、おはしを使って食事をすることができないなど、手や足は正常に動くのに、順序がばらばらになったり、行為が目的から外れたりします。
失認(しつにん)
視力に異常はないのに、視界にあるものを認識したり区別できなくなる状態です。左右が分からない左右失認、何指か答えられない手指失認などがあります。
認知症ケアとは
認知症ケアの特徴
認知症ケアとは、認知症を患う方のその人らしさ・その人らしい生き方を守るためのケアを指します。
厚生労働省は「認知症ケア」=「尊厳の保持」とし、その特徴について次の4点を挙げています。
| 項目 | 内容 |
| 身体のケアと 心のケア | ・食事、入浴、排泄等が対象 ・一定の生活リズム ・生活の行動全般が対象 ・本人のペースに合わせた対応 |
| 関係性の重視 | ・馴染みの人間関係 ・なじみの居住空間 |
| 継続性と専門性の 重要性 | ・状態変化に対応した専門的ケア(医療との適時・適切な連携) |
| 権利擁護の必要性 | ・高齢者本人の意思の代弁 |
認知症ケアとは、単に介護の手法を指すのではなく、認知症を患う方の尊厳を守るための基本的な考え方です。このケアを実践することで、その人らしい生き方が尊重され、生活の質の向上に繋がります。
認知症ケアの必要性
認知症を持つ方は、記憶力や判断力の低下によって、強い不安や焦燥感を感じやすくなります。これが原因となり、徘徊や妄想といった行動に発展することが少なくありません。適切な認知症ケアを実践し、本人が安心して生活できる環境を整えることは、これらの不安を取り除き、問題行動の発生を防ぐことにつながります。
認知症ケアの実践は、このようにお互いにとって不幸な状態になることを未然に防ぎ、家族自身の心身の負担を軽減するためにも必要です。つまり、認知症ケアは、本人の尊厳と安心を守るためであると同時に、家族が無理なく介護を続けるために必要な土台づくりであるといえます。
認知症ケアの方法
ここからは、認知症ケアを実践するうえでのポイントを紹介します。
早期発見と適切な医療
認知症ケアで最も重要なのは、早期発見と適切な医療です。これらが遅れたり、十分に受けられなかったりして放置しておくと、結果として認知症が進行してしまい、効果的な治療が期待できないばかりか、要介護状態になるリスクが高まります。早期の発見と適切な医療を受けることは、認知症ケアを実践するうえでの出発点となります。
専門の相談機関を頼る
認知症の方を支援するうえで、ぜひとも頼りたいのは専門の相談機関です。高齢者の介護問題、自宅での介護を支える機関に「地域包括支援センター」があります。
地域包括支援センターとは、高齢者が住み慣れた自宅で生活を続けることができるよう、介護の相談に応じてくれて、必要な公的サービスにつないでくれます。相談は無料でできますので、認知症のことや介護のことで困ったことがあれば、必要に応じて利用しましょう。
見守り・観察
認知症高齢者のなかには、記憶力や判断力が障害を受けて不安に感じ、結果として徘徊などの行動障害に移ってしまう方が少なくありません。支える家族としては、どうしても問題行動に目が行きがちです。
しかし、そのような問題ばかりに目を向けるのではなく、日々の生活状況を見守り、観察して、彼らが置かれている精神状況などを理解するように心がけることが大切です。
安心して生活できる環境づくり
認知症高齢者のなかには、記憶力や判断力だけでなく、身体機能が低下したことによって、日常生活上の不便さを感じ、それがストレスとなって問題行動を起こすことがあります。
そのため、次のサービスなどを利用し、自宅で安心して生活できるような環境を作ることを勧めます。
- 介護保険制度における住宅改修を利用し、便利な日常生活に繋げる。
- 適切に福祉用具を利用して、屋内外での転倒を防ぐ。
- 部屋の適切な場所に貼り紙(例:トイレ、お風呂、寝床など)をし、今自分がどこにいて、何があるのかを見える化する。
- 訪問介護サービスを提供するヘルパーさんは、なじみの関係の方に依頼する。
認知症ケアを行ううえで大切なこと
ここからは、認知症ケアを行ううえで大切なことを紹介します。
相手のペースに合わせる
自宅で介護する場合、どうしても介護する側のペースを強要しがちですが、そこを我慢して、認知症の方のペースを尊重してみましょう。また、その方の持つ残存能力(残された力、障害を受けていない力)に着目して、ケアを実践してみると良いでしょう。一人で着替えができるのなら、時間をかけてでも自分でやってもらったり、調理ができるのならば、見守りながら味付けを一緒にしたりするなどの工夫をしてみましょう。
失敗しても責めない
認知症の方が食事や排泄、更衣で失敗したとしても決して責めたり、咎めたりしないようにしましょう。家族に叱られると認知症の方からすれば、「怒られた、責められた」というネガティブな感情だけが残ってしまい、結果として不安な気持ちや、焦燥感を高めてしまいます。よって、失敗しても責めずに、そのままを受け入れるよう心がけると良いでしょう。
分かりやすく伝える
何か伝えることがあれば、分かりやすい言葉でハッキリと伝えるよう心がけましょう。なぜなら、難しい言葉や、専門用語、不明確な発音は認知症の方の混乱を招いてしまうからです。また、話すスピードにも注意し、コミュニケーションを取るときの表情にも気を配ってみましょう。
介護する側のケアも大切
認知症ケアが実践できたとしても、認知症高齢者を家族だけでケアし続けることは困難です。また、介護が長期化すると介護者側のストレスが限界を超え、虐待や介護離職といった不幸な状況を引き起こすリスクがあります。
よって、地域包括支援センターに相談して話を聞いてもらったり、適切な介護保険サービスを利用して、適度な休息を取り、心身のリフレッシュをすることを忘れないでください。
まとめ
この記事では、認知症の種類を紹介するとともに、認知症ケア=尊厳の保持を行ううえで大切なことを解説してきました。
認知症ケアでは、まず「認知症の正しい理解」と「早期発見と適切な医療」が重要です。その後のケア実践においては、ご本人の残された能力を尊重し、失敗を責めず、「相手のペースと感情に共感する」という姿勢が鍵となります。
認知症ケアが実践できたとしても、決して家族だけで抱え込まず、地域包括支援センターやケアマネジャーといった専門機関を頼り、介護保険サービスを適切に活用しましょう。
参考文献
- 「知っておきたい認知症の基本」政府広報オンライン 内閣府
- 「「痴呆」に替わる用語に関する検討会報告書」「痴呆」に替わる用語に関する検討会 厚生労働省
- 「厚生労働省「認知症及び軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」
- 「認知症の理解と介護」 中村裕子=編集 メヂカルフレンド社 2013年
- 介護福祉士養成テキストブック11 「認知症の理解」 本間 昭編 ミネルヴァ書房 2009年
- 「認知症ケアの基本的考え方 」厚生労働省


