自宅で介護をする場合、バリアフリー化は必須ですが費用面も含めてどのくらいの工事が必要なのか判断が難しい部分があります。
そんな時に活用したいのが介護保険における「住宅改修」制度です。
どんな改修に利用できるのか、その補助額はどのくらいか、また住宅改修制度やその他の方法について解説します。
Contents
住宅改修制度とは
住宅改修制度は要介護者が可能な限り自宅で自立した生活が送れるように住環境を整えることを目的とした制度です。
住宅改修制度は要介護認定にて要支援1~要介護5と判定された方の住民票に登録された住居が対象です。現在住んでいる住居の改修が対象であり、新築する場合のバリアフリー設備に制度を適用することはできません。
この制度の補助金額は要介護者ひとりあたり上限20万円までで、前年度の本人の収入に応じて1~3割が自己負担額となります。同一世帯に複数の要介護認定者がいる場合はその人数分支給されます。
上限額に達するまで複数回に分けて利用することができます。ただし、注意したいのはこの制度の支給額は年度末で更新ではなく、使い切ったら基本的には再支給がないという点です。ケアマネージャーや福祉住環境コーディネーター(2級以上)などの施工に関わる有資格者とよく相談して必要な改修をするようにしましょう。
ただし引っ越しをした場合や要介護度が3段階以上変更となった場合は新たな設備が必要となるため、再度20万円の補助を受けることができます。
住宅改修制度で出来ること
要介護者や介助者の負担が軽減でき生活がしやすくなるような改修が対象です。
適用できる改修内容は次の通り定められています。それぞれの例と共に紹介します。
1:手すりの取付け
2:段差の解消
3:滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更
4:引き戸等への扉の取替え
5:洋式便器等への便器の取替え
6:その他前各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修
手すりの取付け
階段・廊下・玄関・トイレ・お風呂場など屋内外の生活の場に、歩行や立ち座りの際に握って体を支える手すりを設置することなどです。
屋内の場合は壁にねじ止めなど、屋外の場合は地面に埋め込んで固定します。
段差の解消
日本家屋に多い玄関の上がりかまちや部屋の敷居など、つまずきやすい段差をなくすために和室の床を下げたり屋内用スロープや踏み台を取り付けることなどです。
屋外についてもスロープ取付けや増設などが対象です。階段や石段の段数を増やして傾斜を緩やかにしたりすることも含まれます。
滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更
車いすを操作しやすいよう畳をフローリングに変更したり、滑りにくく転んだ時の衝撃吸収としてクッションフロアに変更したりすることなどです。お風呂場の床を滑りにくい素材に変更することなども対象となります。
屋外では玄関先から道路へ出る動線上でつまずきやすい凸凹した庭を安全に歩行できるよう整えることも対象です。
引き戸等への扉の取替え
トイレやお風呂場・玄関ドアを小さな力で開けやすくするため開き戸から引き戸へ変更することなどです。
握りにくいドアノブの交換や、ドアを完全に取り外し開放する際も対象となります。
洋式便器等への便器の取替え
排泄姿勢を取りにくい和式便器を洋式便器へ取り替えることです。
車いすで個室へ入りやすくするためなど、トイレ個室内の介助スペースを確保するために便器の位置を変更する際も対象となります。
その他前各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修
手すりを取り付けるために壁面に補強が必要な場合や、お風呂場やトイレの改修に伴い排水溝の位置が変わる場合などの追加工事が対象となります。
住宅改修の流れ
上記で紹介した改修を実施する流れは次の通りです。
・ケアマネージャーや福祉用具販売店へ改修内容を相談する
・必要書類を揃えて役所へ事前申請をする
・計画書に基づいて施工し、料金を支払う
・改修が完了したことを役所へ申請する
・補助額が支給される
工事にかかった費用の支払い・補助額の支給方法は2種類あります。基本方法の「償還払い」と一部市区町村で対応している「受領委任払い」です。
・償還払いは一旦費用を全額支払い、後日補助額が返還される方法です。
・受領委任払いは最初の支払いの時点で補助額を差し引いた実費分のみ支払う方法です。
受領委任払いは対応できない市区町村もありますので、事前に担当課に確認が必要です。
レンタル品と組み合わせる方法も
工事を伴う住宅改修の場合、一度施工をすると簡単に位置や高さなど設置場所を変更することができません。要介護度が上がった際など身体状況に変化があった時に使いづらいものになってしまうことがあり得ます。
また、賃貸住宅の場合は必ず大家や物件所有者の承諾が必要であり、改修工事の許可が下りないことも考えられます。許可が得られたとしても、原状回復を自費で行うことが条件となることもあります。
そのため、賃貸住宅に居住している方は住宅改修制度が利用しづらいケースに該当してしまいます。そんな時はどうしたらいいでしょうか?
工事不要な製品をレンタルする
手すりやスロープは固定をせず工事不要なタイプの製品が福祉用具レンタルの対象品に指定されています。
レンタル品は介護保険を利用して月々数百円程度の費用で利用することが出来ることが多いです。不要になった際には返却することが可能なため、費用面でも大きな効果があります。
手すりのレンタル
レンタル可能な手すりはベースと呼ばれる板に手すりがついており、設置したい床面に直接置いて使います。製品そのものにも重量があるので固定しなくてもある程度安定しますが、ベースを踏むことでより安定し手すりとしての機能を果たします。
突っ張り棒のように天井と床面で突っ張って支えるタイプの手すりもあります。
どちらのタイプも壁面から離れた場所にも置きやすいのが利点です。また屋外で使える製品もあります。
またレンタルではなく購入品となりますが、お風呂での手すりは浴槽のフチに挟んで取り付けるタイプの製品もあります。
このタイプの製品は住宅改修ではなく特定福祉用具購入制度の対象品です。
※特定福祉用具購入制度についてはこちらの記事内で解説しています
スロープのレンタル
レンタル可能なスロープは繊維強化プラスチックやアルミなど軽くて丈夫な素材で出来ていることが多く、普段は折りたたんだり分割してスリムに収納しておくことができるものが主流です。
コンパクトになることで車に積んで持ち運ぶことも可能です。
必要な時に組み立てて、段差の間に渡し掛けて段差を埋めることで車いすや徒歩で安全に通ることが出来るようになります。
長さや幅も様々なので、使用する環境に合わせて選択できます。
介護が必要となっても自宅で過ごす
介護が必要となっても出来る限り自宅で過ごしたいと考える人は多いです。
内閣府が公表している「平成30年版高齢社会白書」によると、回答者(全国40歳以上の男女)のうち実に7割の方が自宅で介護を受けたいと回答しています。
出来るだけ住み慣れた家で最後まで過ごしたいと思うことは自然なことです。
しかし、すべての家が最初からバリアフリーや介護生活を想定した構造になっているわけではありません。
近年の新しい住宅では建築当初から手すりがついていることなどもありますが、特に従来式の日本家屋は段差が多く、和式のトイレなど高齢者が安全に生活するためにはハードルとなりうる設備が数多くあります。
これら住宅のハード面を整備するために、介護保険には「住宅改修」という制度があります。
住宅改修制度を活用し、レンタルもうまく取り入れながら環境を整えて要介護者本人自身が出来ることを増やすことが出来れば、介助者の負担も減らすことに繋がります。
どうすれば安全に自宅で過ごすことが出来るか、ケアマネージャーなどの専門家や何より要介護者本人の希望をよくヒアリングして整備していきましょう。