介護の要・不要に関わらず、年齢と共に多くの人が排泄に関する障害や悩みを抱えます。
特に尿・便失禁を起こしてしまうと大変恥ずかしい思いをすると共に自信を喪失してしまい、飲食や外出を控えるようになるなどQOLの低下に大きく影響してしまいます。
事前にどのような症状が起こるのかを知ることで、適切な対処や予防が可能になります。

基本的な傾向として…

高齢になるにつれて1日の合計尿・便量は減っていきますが、膀胱機能の衰えなどにより膀胱の容量が少なくなるため、溜まるまでの時間が速まって排尿回数が増える(いわゆる頻尿)傾向があります。
特に夜間の排尿回数が増えるのも高齢者の排泄の特徴です。いきみづらくなることによって排泄行為自体にも時間がかかるようになりますが、1回あたりの排泄量は合計量と同様に少なくなります。

排便に関しては、主に腸の働きが鈍くなることによる便秘が起こりやすくなります。また体幹が弱まることで排便に適した前傾姿勢が取りづらくなると、便の排出が困難になります。

排尿障害

排尿障害は大きく「畜尿障害」と「排出障害」の2つに分類されます。
尿道の長さなど身体的な構造も関係し、女性は様々な要因による畜尿障害、男性は排出障害を抱えやすいようです。
双方を同時に抱える場合もあります。

畜尿障害

主な症状は「尿失禁」です。尿失禁も4つのタイプに分類され、それぞれ要因が異なります。

切迫性尿失禁

尿が溜まっているときに意図せず膀胱が収縮することで急激に尿意を感じ、トイレまで間に合わずに失禁してしまうものです。過活動膀胱・尿路感染・膀胱炎などが要因となります。

腹圧性尿失禁

尿道の括約筋や骨盤底筋のゆるみが要因となり、重いものを持ったりくしゃみ・笑ったときなど腹部に強く力が入った時に膀胱に圧が掛かって失禁してしまうものです。
女性は特に出産経験があると骨盤が歪みやすく、若いうちからこの症状に悩まされる人も多いパターンです。

尚、「腹圧性尿失禁」と「腹圧性尿失禁」の両方の症状を有する「混合型尿失禁」というタイプの場合もあります。

機能性尿失禁

認知症やADL低下によってトイレでの排泄が間に合わなかったり、「トイレで排泄する」ことが認識できずに失禁してしまうものです。
この場合は膀胱や尿道の状態・機能には問題がないケースが多いようです。

溢流(いつりゅう)性尿失禁

排尿をしても膀胱内に多量の残尿があり、残った尿が少しずつ漏れてくるものです。本人に尿意がないのに、知らないうちに漏れているということもあります。
このタイプは前述の3タイプと異なり、排出障害を抱える人に起きやすいパターンです。膀胱活動の低下が要因と言われています。

各パターンで紹介した要因はすべて身体機能による内的要因ですが、内服している処方薬が排尿に影響を与えるなど外的要因で支障をきたす場合もあります。

排出障害

主な症状は「残尿感」と「排尿後尿滴下(排尿後に尿道に残っていた分が不意に漏れる)」です。性差に関わらず、膀胱に関連する神経障害が影響するような例もありますが、特に男性に多い症状です。

男性の場合、排尿障害の要因として前立腺肥大があります。
前立腺が肥大すると尿道が狭くなるため排尿時の勢いが弱まり、加齢による筋力低下も相まっていきみづらくなります。十分に排泄しきることができないと、女性に比べて尿道が長いため尿道や膀胱内に尿が残りやすくなります。
前立腺肥大は男性の排泄障害の要因No.1となるほど関連が深い疾患で、現代では80歳までに約80%が該当すると言われるほど高齢になるにつれて悩みを抱える人が多いようです。

排便障害

高齢者の排便障害は「便秘」が要因となることが多いようです。
直腸の感覚が低下することによって便意を感じなくなり、排出されなかった便が固くなって便秘となります。しかし食事を取ることで便は新たに蓄積されるため、溜まった便が漏れ出てしまい便失禁を起こすことも少なくありません。
便意がある場合でもいきむ筋力や腸内で便を送る力が弱まると肛門まで便が到達せず便秘が発生します。この場合は肛門自体の筋力も弱まっていることがあるため、便失禁を起こす可能性があります。

このように高齢者にとって便秘は健康に大きな影響を及ぼし、解消には下剤を用いることがあります。ただし肛門の筋力が低下している場合は便失禁の可能性を高めてしまう場合があるなど注意が必要なため、下剤の使用には医師の指示をしっかり仰ぎましょう。
なお、便秘と便失禁は別要因であっても混在して発生する場合があるので注意が必要です。

また、前述した排尿障害の「機能性尿失禁」のように認知症を要因とする便失禁も起こり得ます。

排尿日誌をつけてみる

排泄障害は適切な服薬や生活習慣の見直しで改善が見込めますが、排泄パターンを見極める手がかりとなるのが「排尿日誌」です。
排尿日誌には下記のようなポイントを1日毎に時系列に沿って都度記入します。起床時間・就寝時間も記入し、日中と夜間の排泄回数も分かるようにします。

  • 排尿があった時刻:深夜帯など確認できなかった場合はおおよその時間を記入する
  • 排尿の量:メモリ付きの紙コップや専用スケールを使用 おむつの場合は未使用品との重量差を計測する
  • 尿漏れの有無:下着や尿取りパッドなどに尿漏れがあったかどうかを排尿時に確認する
  • 尿意の状況:尿意があったかどうか、またどの程度の強さだったか等を確認する
  • 水分の摂取量:お茶や水などを飲んだ場合はその量を記入する
  • メモ欄:尿漏れの様子や臭い・色など、気になった点を自由に記入する

排便についても何らかの障害がある場合は、同様に排便日誌をつけてみましょう。

排尿日誌をつけることで本人がどの失禁パターンなのか等の特徴が「見える化」されます。
見える化されることで、排泄が自立している方であれば、適したサイズの尿取りパッドを使用する・何時間おきにトイレへ行きたくなるかなど自分自身が気を付けるべきポイントが分かります。
排泄に介助が必要な方の場合も、おむつ交換やトイレ誘導のタイミングなど介助のタイミングを測りやすくなります。
また、水分摂取量の調整をしたり食事内容の見直し、骨盤底筋体操を取り入れるなど直接排泄に関連しなさそうな事象に関しても工夫することが出来ます。

加齢による衰えは避けられませんし、身体の変化が要因となる排泄障害は誰にでも起こり得ます。
しかし排泄は健康のバロメーターともなるため、出来る限り快適に行いたい行為です。介助者となったとき、また自分が当事者となったときに傾向と対策方法を知っていると、症状と上手く付き合っていくことが可能になります。

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