高齢者が介護が必要となる代表的な要因のひとつは「認知症」です。
認知症を抱える方には、スタンダードな排泄介助の手順以外に配慮が必要な場面がいくつかあります。
認知症の方を対象とした排泄介助の特徴について見ていきましょう。
Contents
認知症とは
「認知症」とは日本では2004年に統一された病気の名称で、発達した知能が後天的な要因で不可逆的に低下する症状を指します。医療の発達した現代でも根本治療につながる治療法がなく、一度衰えてしまった脳の機能は戻りません。
認知症は発症要因によっていくつかの型に分かれ、細かい症状は型ごとに異なることがありますが、下記に紹介する記憶障害・見当識障害・認知機能障害の大きな3つの症状はすべての認知症患者に見られるものと言われています。
記憶障害
過去の出来事を思い出せなかったり、新たなことを覚えることができないこと。
過去と言っても幼少期や若いころの記憶など比較的遠い過去ではなく、「5分前」「昨日」「去年」など近い過去の記憶が思い出せないことが多い傾向があります。
さっきどこに何を置いたか?や今日の日付など、近い過去の記憶を覚えられないという方が感覚としては分かりやすいかもしれません。
見当識障害
時間や方向感覚など、自分の基本的な状況把握ができなくなること。
一般的には、
①時間把握(今はいつなのか、朝晩や季節の感覚など)
②場所・空間把握(ここがどこなのか、道順や建物がわからなくなるなど)
③人物把握(この人は誰なのか、自分と相手の関係性がわからなくなるなど)
の順番で障害が発生すると言われています。
認知機能障害
- 見えたり聞こえたりしているものが何なのかがわからない
- 目的を持った一連の行動が自力で完結できなくなる
など「何かを認識し」「理解する」ことができなくなること。
作業を組み立てることなども難しくなるため、料理の手順がわからなくなったり、身支度のルーティンが崩れてしまったりします。
更にこれらのような一連の手順がわからなくなったり途中でトラブルがあったとき、代替手段としてどうしたらいいのかを考えることが難しくなり、ただ困ってしまうようなこともありえます。
トイレ・排泄に関連した認知症の症状
認知症の3つの障害が認知症特有の症状を引き起こし、排泄についても様々な問題が発生します。
特徴的な症状のうち、本記事では4つ紹介します。
トイレに行けなくなる
この症状は認知症の進行具合によって症状が変化していきます。
最初は「トイレに間に合わなくなる」ことが増えます。
尿意・便意に気づきにくくなったり、トイレまでの移動に時間がかかるようになったりすることが要因です。
次第に「トイレの場所がわからなくなる」ようになります。
トイレへ行きたい気持ちは感じ取れるのですが、肝心のトイレの場所がわからず失禁してしまうなどが考えられます。
さらに症状が進むと「トイレ以外の場所で排泄してしまう」場合があります。
これはトイレの場所を勘違いしたり、トイレをトイレだと認識できなくなることから起こります。
最終的には「『トイレは排泄をする場所』ということがわからなくなってしまう」となってしまうこともあり、この状態まで進むとトイレでの排泄が可能かどうか、おむつを使用するかどうか検討が必要です。
何度もトイレに行こうとする
さっき行ったばかりなのにまたトイレに行きたいと言うなど、短い間隔でトイレへ行きたがることがあります。
実際に加齢に伴う頻尿を抱えていたり、処方された薬の利尿作用が影響している場合もありますが、認知症特有の症状として「トイレに行ったことを忘れてしまう」ことが要因として考えられます。
例えば、生活習慣として『何かをする前にトイレに行く』ようなことが身についていた場合、トイレに行ったことを忘れてしまうと「行かなければ」という気持ちだけが残って何度もトイレタイムを繰り返してしまうこともあるようです。そのような場合はトイレへ行っても排泄がなく、空振りとなってしまうことも多いです。
おむつをいじる・外す
おむつを使用している際、おむつの中に手を入れたり自分で取り外してしまうなどのトラブルが発生することがあります。その際にもしおむつ内に排泄物が残っていたら、手や衣服・身の回りを汚してしまうことにつながります。
共通することとして「なぜ自分がおむつをつけているかわからない」という状況があり、おむつをすることに対する恥ずかしさや抵抗感が強い場合は「なぜかつけているおむつを外したい」気持ちが働きます。
また、汚れていなくてもおむつの不快感があったり、「おむつをしている」ということが理解できない場合でも身に着けているものが気になって触ってしまうということもあります。
弄便(ろうべん)
弄便とは「便を弄ってしまう」ことです。
おむつの中の便を触ったり、衣服や寝具・居室の壁や家具などに便をこすりつけてしまうなどすることがあります。手に便がついたことでパニックになってしまったり、別のケースでは便を大事なものと勘違いして保管しようとしたり、さらには口に入れてしまうこともあるといわれます。
弄便については要因など詳しいことがまだまだわからないといわれていますが、前項の「おむつをいじる・外す」と似たように、これは「便が何であるのか」ということを理解できなくなってしまっていることが影響していると考えられています。
認知症の方への排泄介助で重要なこと
紹介した4つの事例のようなことが起きると、介助者にとっては清掃や消毒・頻繁な付き添い・本人とうまく意思疎通ができないなど、介助量と負担が大幅に増えてしまいます。加えて衛生環境に直結する内容なので、汚物で汚れたりしてしまった場合は素早い処置が必要です。
なぜこんなこともわからなくなってしまったのか?と悲しい思いをしたり、強い口調で叱ってしまうこともあるかもしれません。
ですが、認知症を抱える本人も、いろいろなことがわからなくなってしまっても感情はあるため「なぜだか分からないけれども怒られた」「自分が何かしたので介助者が悲しんでいる」などということは伝わります。
本人なりにその行動をとった理由が何かあるはずですので、よく状況を観察して話を聞き、少しでも本人がトイレや排泄について理解しやすいような工夫をとってあげることが重要です。