「介護老人保健施設(老健)って、どんなところ?」「本当に自宅に帰れるの?」
介護老人保健施設(老健)への入居を検討しているけど、実際の費用や生活がイメージできない方も多いのではないでしょうか。この記事では、介護老人保健施設の特徴をわかりやすく解説します。
Contents
介護老人保健施設とは
介護老人保健施設(老健)は、病気やケガで入院していた高齢者が、退院後すぐに自宅に戻ることが難しい場合に入居し、リハビリテーションや医療ケアを受けながら、自宅への復帰を目指す施設です。
施設では、看護師や理学療法士などの専門スタッフが、入居者の状態に合わせて個別の医療的なケアやリハビリテーションを行います。
また、介護老人保健施設(老健)では、食事や入浴、排泄などの介助だけでなく、日常生活上のサポートが受けられ、安心して療養生活を送ることができます。
介護老人保健施設の入所条件
介護老人保健施設の入居対象・条件は次のとおりです。
- 原則65歳以上で要介護1以上の介護認定を受けている
- 病状が安定していて入院治療が必要ない
- 医療やリハビリテーションを必要としている
ただし、40歳以上65歳未満の方でも、特定疾病(末期がん、脳血管疾患など)に罹患し要介護認定で要介護1以上と判定されていれば入居が可能です。
提供されるサービス
介護老人保健施設で提供されるサービスは次のとおりです。
介護サービス
入居者の身体機能や認知症の有無に応じて、食事、入浴、排泄などの身体介助が24時間体制で提供されます。
日常生活支援のサービス
日常生活支援のサービスとは、衣類の洗濯、居室の掃除、食事の提供などのサービスです。このサービスは介護老人保健施設だけでなく、特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームなどでも提供されているものです。
リハビリテーション
入居者が自宅への復帰を目指して、理学療法士などのリハビリテーション分野の専門職から身体機能や知的・精神機能のリハビリテーションを受けられます。次のような内容です。
| 種類 | 内容 |
| 基本的な動作の訓練 | 寝返り、起き上がり、立ち上がりなど、自宅で日常生活を送るうえで欠かせない動作の訓練 |
| 歩行の訓練 | 自宅での生活を意識した歩行の訓練、杖歩行、伝い歩きや外歩きの訓練 |
| 関節の動きの訓練 | 関節拘縮の予防、状態の改善を目指した関節部分の訓練 |
| 筋力を増やす訓練 | 屈伸、ウェイト、マシンなどを利用した筋力トレーニング |
| 階段の昇り降り | 自宅での生活を意識し、階段を使って昇降を繰り返す訓練 |
| 知的・精神の訓練 | カレンダーづくり、屋外散歩、唱歌、読み、書き、計算、パズル、脳トレ |
| その他 | 立位状態の保持、歩行姿勢の安定を図る体操 |
これらのリハビリテーションは、入居者のADLの維持回復を狙い、今以上に心身機能が低くならないようにすることを狙いとしています。
健康管理
施設に勤務する看護師などが入居者の血圧、脈拍を測り、日々の健康管理を行ってくれます。また必要に応じて、健康維持や生活習慣に関する助言を行う場合があります。
レクリエーション(余暇活動)
レクリエーションとは、入居者の余暇活動、趣味活動に関する様々な支援を指します。入居者は自身の希望に合わせて、書道や盆栽などの趣味活動や、風船バレーや工作などの余暇活動に参加することができます。
入居者はレクリエーションに参加して他者との交流を図り、余暇時間を充実させることができるだけでなく、運動不足の解消や、認知症の予防に繋がります。
介護老人保健施設の人員体制
介護老人保健施設では、法律で定められた人員配置基準に基づいて、以下のような専門職が配置されています。
| 職種 | 配置基準 | 主な役割 |
| 医師 | 入所者100人につき1人以上(常勤) | 健康管理、医療処置の指示、診察 |
| 看護職員・介護職員 | 看護・介護職員合わせて、入所者3人につき1人以上 | 医療処置、健康管理、服薬管理、日常生活の介助、生活支援 |
| 理学療法士、作業療法士、または言語聴覚士 | 入所者100人につき1人以上 | リハビリテーションの計画・実施 |
| 介護支援専門員(ケアマネジャー) | 入所者100人につき1人以上 | ケアプランの作成・管理 |
| 支援相談員 | 1人以上 | 入退所調整、生活相談、家族支援 |
| 栄養士 | 入所者100人以上の施設に1人以上 | 栄養管理、献立作成 |
| 薬剤師 | 必要に応じて配置 | 服薬管理、薬剤指導 |
介護老人保健施設の設備
介護老人保健施設には、以下のような設備が整っています。
居室
介護老人保健施設の居室には、大きく分けて4つのタイプがあります。それぞれ特徴や費用が異なるため、ご家族の希望や予算に合わせて選択することが大切です。
従来型個室:
一人部屋でプライバシーが確保されるタイプ。廊下に沿って個室が並ぶ従来型の構造で、自分のペースで生活できます。費用は多床室より高めです。
従来型多床室:
2人~4人程度が一つの部屋で生活する相部屋タイプ。最も一般的な居室形態で、カーテンなどで仕切られています。費用は最も安価ですが、プライバシーは限られます。
ユニット型個室:
10人程度を一つのユニット(生活単位)とし、個室と共同リビングを組み合わせたタイプ。プライバシーを保ちながら交流もできる家庭的な雰囲気が特徴です。一般的に費用は最も高額になります。
ユニット型個室的多床室:
ユニット型の構造ですが、完全な個室ではなく天井部分などが共有されているタイプ。固定壁で仕切られ、従来型多床室よりプライバシーが確保されています。費用はユニット型個室と従来型多床室の中間程度です。
共有スペース
施設内には、入所者が快適に過ごし、リハビリや交流ができる以下のような様々な共有スペースが設けられています。
| ・リハビリテーション室 ・食堂 ・浴室 ・診療室 ・リビング ・レクリエーションルーム |
入所までの流れ
施設入所までの流れは、以下のようなステップとなります。
介護認定を受ける
まだ介護認定を受けていない場合は、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口または地域包括支援センターで要介護認定の申請を行います。
施設への問い合わせや見学
介護認定を受けたら、候補となる施設に問い合わせをして見学の予約をします。見学では、施設の雰囲気、清潔さ、スタッフの対応、設備の充実度などを確認しましょう。
入所申し込み
入所を希望する施設が決まったら、正式に入所申し込みを行います。申し込みに際して必要な資料(例:入所申込書、重要事項説明書など)がありますが、施設によって異なりますので、あらかじめ施設担当者に確認しておきましょう。
面談
施設のスタッフ(医師、看護師、支援相談員など)との面談が行われます。本人の心身の状態、生活歴、既往歴、現在の病状、服薬状況、リハビリの目標などについて詳しくヒアリングされます。
書類提出
面談後、施設利用申込書、診療情報提供書(主治医からの紹介状)、健康診断書、服薬情報などの必要な書類を提出します。
入所判定
提出された書類と面談内容をもとに、施設内で入所判定会議が開かれます。医師、看護師、介護職員、リハビリスタッフなどが参加し、要介護度、医療的ケアの必要性、リハビリの必要性、在宅復帰の可能性などから受け入れ可否を総合的に判断します。
契約・入所
入所が決定したら、入所契約を行います。利用料金、サービス内容、退所条件などをしっかり確認しましょう。契約完了後、入所日を調整し、必要な持ち物を準備して入所となります。
入居費用
介護老人保健施設の入居に際し、かかる費用を説明します。
初期費用
介護老人保健施設は入居時の入居一時金・入居金と呼ばれるものは設定されません。ただし、入居時に必要な日用品の購入や、引越し費用は自己負担となります。
月額費用
介護老人保健施設の月額費用は、入居者の要介護度、所得、居住する部屋の種類によって異なりますが、一般的には約12万円~21万円です。以下、内訳を紹介します。
| 項目 | 内容 | 費用 |
| 居住費 | 施設内の居室を利用することによる家賃。部屋の広さ、多床室・個室によって幅がある | 約2万円 |
| 食費 | 朝昼晩=1日3食の費用。1食あたり約600円 | 約5.4万円 |
| 介護サービス費 | 要介護度や所得によって異なる。 | 約3万円~11万円 |
| 日用品費 | 歯ブラシ、ティッシュペーパー、下着、パジャマなどの生活に必要な消耗品の費用 | 約1~2万円 |
| 各種加算 | 施設の設定する各種加算。例:短期集中リハビリテーション実施加算、ターミナルケア加算など | 施設によって異なる。 |
参考:「介護サービス概算料金の試算」厚生労働省、「介護老人保健施設」社会保障審議会介護給付費分科会(第221回) 資料2 令和5年8月7日 厚生労働省老健局
介護老人保健施設のメリット
介護と医療を受けられる
介護と医療の両方の専門スタッフがいるため、通常の介護サービスを受けながら、病気やケガの治療を受けられます。
リハビリテーションが受けられる
介護老人保健施設ではリハビリテーションを盛んに行い、入院・入居前の生活に戻ることを狙いとしています。そのため、心身機能の回復や、自宅への復帰を目指している方に適している施設です。
医療機関が併設しているので、万が一の際に安心
介護老人保健施設は、病院などの医療機関に併設されているのが一般的です。そのため、万が一の際にも医療機関による適切な対応が期待できる体制なので、入居者・家族ともに安心できます。
介護老人保健施設デメリット
待機者が多くすぐに入居できない
介護老人保健施設は入居一時金がなく、月額費用が安いため、入居希望者(待機者)が多いことから、すぐに入居ができず時間がかかってしまいます。
入居を待つ期間は、施設や地域によって異なるため、一概にどのくらいとは言えませんが、希望してもすぐには入居できない状況です。
自宅復帰を目指す施設なので長期入居ができない
介護老人保健施設は、自宅への復帰を目指す施設であることが前提であるため、特別な事情を除き、原則として長期の入居ができません。
入居できる期間は原則として3ヶ月とされていますが、心身状況に合わせて入居を継続することも可能です。
施設選びのポイント
介護老人保健施設への入居を迷っている場合、次のポイントを確認して選択すると良いでしょう。
施設の雰囲気を知る
入居する前に施設を見学して、入居者の生活や施設内の雰囲気を知るようにしましょう。インターネットやパンフレットだけでは、現地の様子や雰囲気を掴むことはできませんので、実際に足を運んで雰囲気を感じてみることを勧めます。
月額費用はどのくらいか
施設へ入居すると月額費用がかかります。月額費用は、入居者の要介護度などに応じて異なりますが、その額が自身の負担できる程度のものなのか確認しましょう。
なお、月額費用は入居前にその目安を知ることが可能です。詳しくは担当のケアマネジャーに確認しましょう。
在宅復帰率はどのくらいか
入居者の自宅復帰の実績を参考にすると良いでしょう。復帰率が高いということは、効果的なリハビリテーションが実践されている、または経営が安定していると考えることができます。これを参考基準にするのも一つの方法です。
職員の接遇は良いか
施設職員、特に介護職員の接遇が良いか確認しましょう。こちらもインターネットやパンフレットではうかがい知ることができませんので、実際に施設を見学した際に、入居者への介護が丁寧に行われているか、声掛けの様子や表情などを観察し、適切なサービス品質かどうか確認します。
施設へのアクセスが良いか
施設は交通アクセスが良く、ロケーションが便利な方が良いです。なぜなら、施設が不便なところに建てられていると、家族の面会頻度が減ったり、外出レクリエーションの機会が減ってしまい、生活の質が下がることにつながってしまうからです。
よくある質問
ここからは、介護老人保健施設への入居に関して、よくある質問とその答えを紹介します。
看取り介護をしているか
介護老人保健施設のなかには、看取りの介護が提供できる体制を設けているところもあります。看取りの介護とは、施設で最期を迎えようとしている入居者に対して行われる身体的・精神的なケア・見守りのことです。
ただし、すべての介護老人保健施設で看取りを行っている訳ではありませんので、自身の希望する施設が、このような体制を整えているかどうか確認すると良いでしょう。
特別養護老人ホームとの違いは
介護老人保健施設に似た施設として、特別養護老人ホームがあります。それぞれはどのような点に違いがあるのか、表で示します。
| 介護老人保健施設 | 特別養護老人ホーム | |
| 特徴 | 介護やリハビリテーションを受けながら在宅復帰を目指す施設 | 介護を受けながら、その人らしい生活を送る施設 |
| 入居条件 | 65歳以上で要介護1以上の方 | 65歳以上で要介護3以上の方 |
| 入居期間 | 原則、3ヶ月 | 終身利用が可 |
| 月額費用 | 約12万円~21万円 | 約10万円~20万円 |
| その他 | 入居者によっては長期に入居するケースもある。 | 重度の認知症の方や、要介護度の高い方が入居する。 |
両者には上記のような違いはあるものの、昨今では、介護老人保健施設にも重度の認知症や要介護度の高い方が入居しているケースがあります。
また、重度の認知症を患い、入居が長期化していることで看取り介護を受けている方や、施設で最期を迎える方もおり、両者の違いが違いが明確でなくなってきている現状があります。
特別養護老人ホームの詳細については、「特別養護老人ホームとは?費用や条件、サービス内容をわかりやすく解説!」をご覧ください。
入居を待つ間にできることは何か
入居を待つ間、複数の施設へ入居予約の申し込みを行い、ベッドの空いた施設からすぐに入居できる体制を整えておくと良いでしょう。
介護老人保健施設などの公的な施設は、申込みから入居決定までにはどうしても時間がかかってしまうため、入居待ちのリスクを軽減するために、一つの施設に申し込んで待ち続けるのではなく、複数施設へ同時に申し込みましょう。
まとめ
この記事では、介護老人保健施設(老健)での生活について、入居を検討されている方に向けて解説しました。
介護老人保健施設は、病気やケガで入院し、退院後すぐに自宅に戻るのが難しい方が、リハビリや医療ケアを受けながら在宅復帰を目指すための施設です。
リハビリテーションを通じて、在宅復帰を目指す方にとっては、心強いサポートを受けられる施設です。入居を検討される際は、この記事を参考に、ご自身に合った施設を選んでください。
参考文献
- 「介護老人保健施設」社会保障審議会介護給付費分科会(第221回) 資料2 令和5年8月7日 厚生労働省老健局
- 「第2の特養化問題と介護老人保健施設施設の医療機能」全老健常務理事 介護老人保健施設なのはな苑理事長 内藤圭佑 老健 2010年度11月号 P7


