自宅で介護をしている場合、自立した排泄を維持するために、居室でのポータブルトイレ設置を検討することがあります。
元々トイレの無かったところにトイレを置いて排泄をすることになりますが、その際に気を付けるべきことはどんなことでしょうか。
また、居室にトイレを設置することで、どのような効果があるのでしょうか。
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個室の水洗トイレが利用できない状況とは
日常動作に介護が必要な身体状況になると、自分のタイミングで自由に廊下を歩いて「個室の水洗トイレ」を利用することは容易には叶わなくなります。
しかし日本人は出来る限り「個室の水洗トイレ」を使用することを希望する人が多いと言われます。
特別養護老人ホームや有料老人ホームなど介護を必要とした生活を送ることを想定した施設でない限り、各個人の居室内にトイレがあることは稀です。
個室の水洗トイレが使いにくくなる理由
居室にポータブルトイレを設置する話の前に、まずは「個室の水洗トイレが使いにくくなる理由」を考えてみましょう。
最も大きな理由は「筋力や身体機能の低下」です。
これにより、
- 尿意や便意を感じづらくなり、余裕を持ってトイレへ行けなくなる
- 排尿・排便障害を抱えやすくなり、急にもよおしたり頻繁にトイレへ行きたくなる
- 歩行速度が遅くなったり歩幅が狭まることで、すぐにトイレへ行けなくなる
といったことが起こり得ます。
別の視点では、
- 室内が狭かったり便器や手洗い場の配置などの影響で、個室トイレ内の介助スペースが十分に確保できない
- バランスが取りづらかったり動線上に段差があるため、歩行中の転倒リスクが高くなる
などから、「個室の水洗トイレでは安全に排泄介助が出来ない」ことが課題となります。
こちらは住宅改修で改善できることもありますが、改修規模や費用面などから断念せざるをえない場合もあるかと思います。
個室の水洗トイレが利用できないことで起きる課題
個室の水洗トイレまで距離があったり、トイレのスペースが十分でなかったりする場合、排泄準備に時間がかかってしまって「排泄する前に失禁してしまう」可能性が高まります。
弊社ブログでは「排泄はデリケートな問題」とよく記述しますが、失禁してしまうと本人は大変な恥ずかしさや情けなさなど負の感情を感じます。
また、家族などから叱られたり責められたりすると自尊心が大きく傷ついてしまいます。
「排泄はデリケートな問題」であるだけに、排泄に問題を抱えると介助者・被介助者の両方にとって身体的・心理的に負担が大きくなります。このような身体的・心理的な負担は、「個室の水洗トイレでの排泄を断念する」十分な理由になり得ます。
特に排泄に介助が必要な身体状況になると介助の量がそれまでと比較して急激に増えるとも言われ、そもそも(どのような形であれ)トイレがひとりで出来ない場合は自宅での介護を続けること自体が難しいと考える人も少なくないのです。
居室にポータブルトイレを設置するメリット
- 個室の水洗トイレで排泄する前に失禁してしまう
- 個室の水洗トイレでは安全に排泄介助が出来ない
という課題を根本的に解決することは困難です。
ただし、「個室の水洗トイレ」でなければどちらも少しの介助で排泄の自立を叶えることが出来るかもしれません。
立つ・座る・歩く・脱ぐ・着るというトイレで必要な動作自体が少しでも出来るのであれば、「(普段の居場所に近い)居室にポータブルトイレを置く」という選択肢があります。
ポータブルトイレで排泄の自立を保つことができる
ポータブルトイレのメリットのひとつは「排泄の自立を保つことができる」ということです。
前述の「個室の水洗トイレが利用できないことで起きる課題」の項でも述べましたが、排泄に対して他人の手を借りることや失敗は大きく自尊心を傷つけてしまいます。
例え居室の中であっても、ポータブルトイレがあることで自分が行きたいと感じた時に自力で安全にトイレへ行くことが出来れば、それは大きな成功であり精神面でもとても重要な意味を持ちます。
排泄は1日1回ではなく複数回行う頻度の高い行為であり、人によってその回数やタイミングはまちまちです。
排泄の自立を保つことが出来ると、介助者の負担も軽減することに繋がります。
ポータブルトイレで理想的な排泄姿勢を取ることが出来る
もうひとつのメリットは「理想的な排泄姿勢を取ることが出来る」という点です。
おむつを使うようになると、ベッド上で主に仰臥位(仰向け)や側臥位(横向け)・ギャッジアップ(電動ベッドの機能を使って背中や脚を起こした状態)で排泄するようになります。
これらの姿勢は腹圧がかかりにくく直腸の角度もまっすぐにならないため、人間の身体構造上では排泄がしづらい姿勢です。
排泄姿勢が適切に取れないと尿や便を出し切ることが出来ず、残尿があったり便秘になったりとトラブルを抱えやすくなります。
ポータブルトイレでは座って床に足裏がついた姿勢で排泄をするため、前傾姿勢を取ることで腹圧をかけ、直腸の角度がまっすぐになり排泄しやすくなります。
すっきりと排泄が出来ると食事をとる意欲が湧いてきたり、残尿感や便秘に伴う腹痛などの不快感を軽減することが出来ます。
居室にポータブルトイレを設置する際に気を付けるべきこと
ポータブルトイレの「臭い」の問題
ポータブルトイレの回でもご紹介しましたが、ポータブルトイレを使うことで利用者本人に生じるメリット・デメリットはもちろん両方あります。
ポータブルトイレ導入に際し、多くの方から悩みとして寄せられる代表的なものは「臭い」の問題です。
排泄物自体の臭いは、実は排泄直後はまださほど強くありません。
時間経過と共に臭い成分(アンモニアやスカトールなど)が発生し、どんどん臭いが強くなっていきます。
この臭いはバケツの中の排泄物だけではなく、ポータブルトイレ本体に付着した目に見えない汚れや付近の床・家具に飛び散った汚れなどからも発生します。
更には臭いが部屋のカーテンや壁紙・リネン類などに移り「いつも何となく臭う」という状態になってしまうケースもあります。
排泄物の臭いが漂う中で1日を過ごす…本人はもちろん、家族など周囲の人にとっても辛いものです。
理想では排泄直後にしっかりバケツの後片付けが出来れば良いのですが、仕事や家事・就寝中など介助者のライフスタイルによっては難しい時間帯がもちろんあります。
その場合はポータブルトイレ用の消臭アイテムを活用し、臭いを閉じ込めたり成分を分解して軽減させるなど対策をとることが可能です。
空気の通り道を作って換気効率を上げ、空気が一か所に留まりすぎないようにすることも効果があります。
ポータブルトイレの「プライバシー」の問題
また、プライバシーや尊厳を守れるように「羞恥心」について考えることも重要です。
ポータブルトイレのメリットを理解はしていても、長年の生活習慣や衛生面から、個室トイレ以外の場所で排泄をすることに大きな抵抗を感じる方は多いです。
前述の臭いの件も該当しますが「生活空間に不浄を持ち込む」ことに対して消極的になるのも無理はありません。
更に、ポータブルトイレで排泄介助を受けるということは「排泄物を見られてしまう」「排泄物の処分を他人にさせてしまう」ということでもあります。
失禁してしまった時と同様、このことは非常に自尊心を傷つけ「こんなことも出来なくなってしまった」と様々なことに対する意欲を失ってしまいかねません。
もしも被介助者本人が短い距離ならば安全に歩くことが出来るようであれば、ポータブルトイレを風通しが良く人目につきにくい廊下の隅に置く・ベッドサイドの場合でも衝立やカーテンを設置して他者から排泄姿が見えないようにするなどの配慮があると良いでしょう。
ポータブルトイレのバケツに関しても、処理袋や自動ラップ式を活用すると排泄物の片付けにかかる労力を大きく減らすことが出来ます。
どちらの問題も「介助をしてもらっている」という状況から辛い気持ちを被介助者自ら訴えにくいことがあります。
ADLが低下すると今までと異なる生活環境に身を置かざるを得なくなり、介助者・被介助者共に戸惑うこともあるかもしれません。
まとめ
本記事で述べたように「個室トイレ以外の場所で排泄をすること」に大きな抵抗を感じる方は少なくありません。
一例として、排泄ケアの勉強会などではおむつを配布され『今夜このおむつを身に付けて、ベッド上で排泄してみてください』と「おむつの中に排泄する」体験をすることが時折ありますが、しようと思っても理性が働くのかなかなか(あるいは全く)出来なかったという人が大半のようです。
このことからも、「トイレで排泄する」ということが人間にとっていかに重要なことなのかが分かります。
衛生面など考慮しても居室で排泄するかどうかは非常に悩ましい問題ではありますが、食事や入浴と違い「誰かと一緒にする」機会が極端に少ないのが排泄です。
ポイントを押さえながら居室で排泄を済ませる環境を整え「今の状態でひとりでできる最善の排泄」を可能な限り長く続けていくことが大切です。