「介護保険って、よく聞くけど、一体何なの?」
「親の介護が始まったけど、どこから手をつければいいかわからない…」
ご家族の介護が始まり、介護保険について詳しく知りたいとお考えの方も多いのではないでしょうか。
介護保険は、介護が必要になった方が、安心して生活を送れるよう、様々なサービスを提供する制度です。しかし制度自体が分かりづらく、利用に抵抗感を持っている方も少なくありません。
この記事では、介護保険制度の基礎知識から、利用できるサービスまで、初心者にもわかりやすく解説します。ぜひとも参考にして、適切な介護サービスの利用につなげてください。
介護保険制度とは
介護保険制度とは、介護が必要になった高齢者を社会全体で支える公的な仕組みです。歳を取って介護が必要になった高齢者が、介護サービスを利用しながら、できるだけ自分らしい生活を続けられることを狙いとしています。
医療保険に加入している人が、病院にかかり診療や治療を受けるのをイメージすると分かりやすいでしょう。その介護バージョンが介護保険制度です。
介護保険制度が必要とされる背景
介護保険制度が必要とされる背景には、次の点が挙げられます。
項目 | 内容 |
要介護高齢者の増加 | 少子高齢化に伴って高齢人口が増え、介護を必要とする高齢者が約676.6万人となった。今後も増える見込み。 |
介護期間の長期化 | 平均寿命の伸長に伴って、要介護状態の期間が長くなった。健康寿命と平均寿命の差は、男性が約9年・女性が12年。 |
介護費用の負担大 | 要介護状態となった場合に必要な費用(介護保険の範囲外の費用) 15.7 万円/月となっている。 総額3,078 万円が必要とされる。 |
参考:「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査(速報版)」公益財団法人生命保険文化センター
もはや、高齢者介護は高齢者自身・家族だけでは解決することが難しい問題です。国が社会保険として制度化し社会全体で支える仕組み=介護保険制度が必要とされ、導入されるに至りました。
介護保険制度に加入する人
介護保険制度に加入する人を「被保険者」といいます。被保険者は保険料を払う見返りに、介護保険サービスを利用することができます。
被保険者は次の2種類に分けられており、保険料の算出方法も異なります。
被保険者の種類 | 対象 | 保険料 |
第1号被保険者 | 65歳以上で市区町村に住所を有する者 | 一人あたりの平均保険料(基準額)に所得段階ごとの割合をかけて算出する。住んでいる自治体によって多少異なる。 |
第2号被保険者 | 40歳から65歳未満の者で市区町村に住所を有し、医療保険に加入する者 | 所得によって保険料が算定される。加入する医療保険によって詳細が異なる。 |
介護保険制度を使ってできること
介護保険制度を使ってできることは、次の4点です。以下、一つずつ解説します。
少ない費用負担で介護サービスを利用できる
介護保険制度を使えば、少ない自己負担(サービス費用の1〜3割)で介護サービスを利用することができます。
介護を必要とするレベル(要介護度)に応じて、利用できるサービスの量・種類は限られているものの、少ない負担で十分なサービスの利用が可能です。
利用できるサービスを選べる
介護保険制度には「利用者主体」という理念があり、利用者は自身の希望するサービスの種類や事業所を選ぶことができます。
私たちが買い物するお店やコンビニエンスストアを選ぶことができるように、介護サービスにおいても、利用目的や通いやすさ、職員の接遇などを条件として、利用する事業所を選択することができます。
家族の介護負担を減らすことができる
介護サービスを利用することによって、家族の介護負担を軽減することができます。
自宅での介護は家族の身体的・精神的負担が大きくなりがちですが、介護保険による訪問介護やデイサービスなどを利用すれば、その間は介護をしなくて済むため、負担を大きく軽減できます。
介護支援専門員(ケアマネジャー)に無料で相談できる
介護保険に関して分からないことや、困ったことがあれば、介護支援専門員(以下、ケアマネジャー)に無料で相談できます。
ケアマネジャーとは、介護保険の利用に関して、相談に応じるとともに、適切な介護サービスの利用につながるように助言してくれたり、無料で利用者のケアプランを作成してくれたりする専門職です。
いざ介護保険を利用しようと思っても、何をどのようにしたら良いか検討がつかないという方のために、利用者・家族の立場に立って、必要な情報を提供し、支援・サービスに繋いでくれる心強い味方です。
どの介護サービスを利用したら良いかわからない、かかる費用について詳しく教えてほしいなどの疑問がある方は、担当の介護支援専門員ケアマネジャーに相談しましょう。
介護サービスを利用するには
介護サービスを利用するには、市町村による要介護認定を受けて、要支援1・2、要介護1~5のいずれかに認定されなければなりません。
要介護認定とは、介護を必要とする度合い(=要介護度)を明らかにし、行政がそれを認定する仕組みです。次の流れで行われます。
1:市町村に要介護認定の申請を行う。
2:市町村による訪問調査を受ける。
3:一次判定
4:二次判定
5:要介護認定の結果が通知される。
6:担当のケアマネジャーを決める
7:ケアプランの作成
8:サービスの利用を開始する。
要介護認定やその流れに関しては、こちらの記事をご覧ください。
要介護認定の申請から結果通知まで ~手続きの流れを詳しく解説~
利用できる介護サービス
介護サービスには様々なものがありますが、大きく分けると4つに大別できます。
種類 | 内容 |
自宅を訪問してくれるサービス | 自宅にホームヘルパーや看護師が来て、介護や医療を提供してくれるサービスです。 |
自宅での生活を便利にするサービス | 自宅の段差を解消したり、お風呂やトイレに手すりを設置したりできるサービスです。また、杖や歩行器、介護用ベッドをレンタルできるサービスもあります。 |
施設に通うサービス | デイサービスセンターなどの施設に通って、日帰りで介護を受けられるサービスです。施設への移動は、施設が送迎してくれるので便利に利用できます。 |
施設に入居して介護を受けるサービス | 老人ホームなどの介護施設に入居して、介護を受けられるサービスです。自宅での介護が難しい場合に利用すると良いでしょう。 |
利用者は担当のケアマネジャーに相談のうえ、どのサービスをどのくらい利用するのかを考えケアプランを作成し、利用することとなります。
よくある質問
ここからは、介護保険制度に関してよくある質問を紹介します。
介護保険制度を利用したいけど、どこに相談へ行けばいい?
まずは、市町村の担当窓口、または地域包括支援センターへ相談に行きましょう。担当者が相談内容を聞いたうえで、要介護保険制度の仕組みや、要介護認定の流れを説明してくれます。
65歳になったら手続きをしなければならない?
いいえ。65歳になっても「今は健康で元気なので介護なんて要らない」という場合は、介護保険に関する手続きをする必要はありません。
ただし、要介護状態となり、介護保険サービスを利用する場合には、市町村に要介護認定の申請手続きをする必要があります。
65歳になったら、すぐに介護サービスを利用できる?
いいえ。先述のとおり、介護サービスを利用する場合には、市町村による要介護認定を受けなければなりません。
ただし、急を要す場合には要介護認定の結果を待たずにサービスを利用できる場合がありますので、市町村窓口に相談してください。
介護保険料を滞納したらペナルティはある?
はい、あります。介護保険に加入する方は、介護サービスの利用有無にかかわらず、法律に則って介護保険料を納めなければなりません。
介護保険料を滞納している方は、その期間によってペナルティの内容(例:介護サービスが一時的に利用できないなど)が異なりますので、催促状や督促状が届いたら、できる限り早く納めましょう。
どのサービスを使ったらいいのか分からない場合は
どのサービスを使ったらいいのか分からない場合は、ケアマネジャーに相談しましょう。ケアマネジャーは、介護を必要とする方の希望や負担できる費用をふまえたうえで、保険の範囲内でサービスの利用計画(ケアプラン)を立て、適切な助言をしてくれる心強い専門職です。無料で相談に乗ってくれるので、ぜひ活用しましょう。
ケアプランの作成は無料?
はい。ケアプランの作成に関する費用は全額介護保険で賄われ、利用者の自己負担はありません。ケアプランとは、ケアマネジャーが利用者や家族の意向を聞いたうえで、何を目標に、どの介護サービスを、どれくらいの量・頻度で利用するのか、あらかじめ決めておく利用計画書のことです。
2025年1月時点では、利用者の自己負担はありませんが、近い将来、介護保険法の改正によって、利用者が費用の一部を負担しなければならなくなるかもしれません。
利用者の自己負担割合はどうやって決まる?
介護保険サービスを利用した場合の自己負担割合は、原則1割ですが、一定以上の所得がある方は、2割・3割とされています。詳しくは次のとおりです。
自己負担割合 | 条件 |
1割 | 本人の合計所得金額が160万円未満 |
2割 | 本人の合計所得金額が160万円以上220万円未満で、かつ年金収入+その他合計所得金額280万円以上の場合(単身者の場合) |
3割 | 本人の合計所得金額が220万円以上で、かつ年金収入+その他合計所得金額340万円以上(単身者の場合) |
まとめ
介護保険制度は介護を必要とする高齢者を社会全体で支える仕組みで、少ない負担で利用できるサービスがたくさんあります。
家族だけで介護することが難しい場合は、担当のケアマネジャーに相談しつつ、この記事で紹介したサービスを組み合わせて便利に利用し、無理なく自宅での生活が続けられるようにしましょう。
参考文献
- 「令和6年版 高齢社会白書」内閣府
- 「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査(速報版)」公益財団法人生命保険文化センター
- 「介護保険制度について」厚生労働省
- 「要介護認定の仕組みと手順」厚生労働省老人保健課
- 「最新 社会福祉士養成講座 高齢者福祉」 一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟=編集(2021)中央法規出版
- 「給付と負担について(参考資料)」厚生労働省 老健局