介護情報
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特別養護老人ホームをわかりやすく解説!初めての方でも安心
特別養護老人ホームとは 特別養護老人ホームとは、自宅での生活が困難で、常に介護が必要な高齢者が入居して生活を送る施設です。社会福祉法人などが運営する公的施設として位置づけられ、入居者に対し、食事・入浴・排泄などの身体介助、身の回りの世話のサービスが提供されます。 入居の対象・条件 特別養護老人ホームの入居対象・条件は次のとおりです。 65歳以上であること要介護認定で要介護3以上と認定された方重度の要介護状態で、自宅での生活が困難な方 など ただし、要介護3未満の方でもやむを得ない事情があれば、例外的に特別養護老人ホームへ入居することが可能です。次のような例です。 自宅で老老介護が長期化して、介護者と共倒れのリスクがある一人暮らしで重度の認知症を患っており、自宅での生活に危険がある近隣に居宅サービスの提供事業所がなく、自宅で十分な介護サービスを受けられずに一人で生活するのが難しい など 提供されるサービス 特別養護老人ホームで提供されるサービスは次のとおりです。 介護サービス 入居者のADL(Activities of Daily Living=日常生活動作)に合わせて、食事、入居、排泄などの身体介助が24時間体制で提供されます。ちなみに、ADL(日常生活動作)とは、入居者が日常生活を送るための基本となる身体動作(起き上がる、立ち上がる、座る、着替えるなど)を指します。特別養護老人ホームでは、入居者のADLに応じて介護が提供され、できる限りその人らしい生活を送ることができるようサポートが行われます。 日常生活支援のサービス 日常生活を支援するサービスとして、衣類の洗濯、居室の掃除などのサービスが提供されます。その他、入居者が施設で生活するうえで必要な支援が行われます。 健康管理 看護師などが入居者のバイタルチェックを行い、日々の健康を管理してくれます。また必要に応じて、職員が健康維持や生活習慣に関する助言を行う場合があります。 機能訓練 理学療法士や看護師が、入居者に対して機能訓練を実施しています。施設によっては、身体機能の訓練だけでなく、精神・知的機能の訓練(脳トレなど)もあります。 レクリエーション(余暇活動) 入居者の生活を充実したものにするため、施設内外でレクリエーション(余暇活動)が行われています。施設内では手芸、カラオケ、書道、華道など趣味に関するレクリエーションが行われる一方、施設外ではお花見、お彼岸、近くのショッピングモールへの買い物などがあります。 特別養護老人ホームのメリット 特別養護老人ホームに入居すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。以下、一つずつ見ていきましょう。 24時間体制で介護が受けられる 特別養護老人ホームは、介護職員が24時間勤務しており、生活に必要な介護サービスが提供されています。入居者にとっても、家族にとっても安心できる環境であるといえます。 初期費用がかからず、月額費用が安い 特別養護老人ホームは、有料老人ホームなどの民間施設と比べると、初期費用(入居一時金など)が発生しないため、 経済的な負担を抑えながら入居することができます。また、施設での生活に伴う月額費用(後述)も安く抑えられます。 看取り介護を提供している 多くの特別養護老人ホームでは、看取りの介護(ターミナルケア)を提供しています。看取りの介護とは「近い将来、死が予見される人に対し、その身体的・精神的苦痛、苦悩をできるだけ緩和し、死に至るまでの期間、その人らしく充実して生き抜くことができるよう日常の暮らしを援助する介護」を指します(参考:静岡県ホームページ)。施設で最期を迎えたいと考えている入居者や、その家族にとっては安心できるポイントです。 特別養護老人ホームのデメリット 特別養護老人ホームのデメリットも合わせて見ておきましょう。 待機者が多く、すぐに入居できない 特別養護老人ホームは、費用の安さから入居希望者(待機者)が多く、すぐに入居できない場合があります。前述のとおり、有料老人ホームなどの民間施設と比べると入居一時金や月額費用を抑えて入居することができるため、どうしても入所希望者が多くなってしまい、施設によっては入居までに待機期間が長引くケースがあります。 重度の高齢者が入居している 前述の通り 特別養護老人ホームは、原則として要介護3以上の方でないと入居することができません。また、入所する利用者の平均要介護度は3.95で、要介護4が37.8%で最も多く、次いで要介護5が32.3%で多いです(参考:厚生労働省)。このようなことから、入居する方の多くは重度の要介護高齢者であるため、他の利用者との活発な交流を希望する方には適していません。 施設によっては4人部屋 特別養護老人ホームは 従来型とユニット型の2種類があり、 従来型はその多くが4人部屋です。よって、施設によっては4人部屋しかなく、多床室が苦手な人にとって生活の質を下げることに繋がります。なお、ユニット型とは10人以下の少人数で生活単位を分け、入居者の居室を個室とし、その近くに共用スペースを設けた構造を指します。近年ではユニット型が一般的になっており、入居者は自宅に近い居住環境で生活を送ることができます。 入居に関する費用 ここからは特別養護老人ホームの入居に際し、かかる費用を説明します。 初期費用 特別養護老人ホームは、入居時に必要となる入居一時金や保証金はありませんが、施設へ持ち込む様々な日用品の購入費用や、荷物を運び込む際に引越し業者を利用すればその費用は自己負担となります。 月額費用 特別養護老人ホームに入居すれば、月額費用として約10~20万円かかります。内訳は次のとおりです。 項目内容費用居住費施設内の居室を使うためにかかる家賃のようなもの。使用する居室の広さ・種類によって費用が異なる。約2~6万円 食費1日3食の費用約4.5万円介護サービス費 要介護度によって異なる。入居者はかかった費用の1~3割を負担する。約3~9万円その他の費用医療費、散髪代、リネン代など約1万円参考:「介護報酬の算定構造」社保審 介護給付費分科会 厚生労働省 ほか なお、経済的に困っている方は、月額費用の一部が減免される制度を利用することができます。詳しくは担当のケアマネジャーに相談してください。 入居までの流れ 特別養護老人ホームへ入居するまでの流れは次のとおりです。 施設への問い合わせ 入居したい特別養護老人ホームへ問い合わせて、パンフレットを取り寄せるとともに施設の見学を依頼します。 見学・相談 施設見学の日時調整をおこない、施設へ見学します。特に注意して確認したい箇所があれば、あらかじめその要点を書き出しておき、施設担当者と事前に共有しておくと便利です。 入居申し込み 見学後に施設へ入居申込をします。申し込みに際して必要な資料(例:入居申込書、重要事項説明書など)がありますが、施設によって異なりますので、あらかじめ施設担当者に確認しておきましょう。申し込みが受理されれば待機者リストに登録され、施設へ入居する理由・経緯などによって、優先順位付けが行われます。優先順位付けのルールに関して、一例を示します。 認知症の重度化している老老介護が常態化し共倒れするリスクがある家族環境によって介護を受けられない これらの事情を抱える方は、待機者のリストの高順位となるようなルールが設けられています。 面談と契約・入居 入居が近くなると施設から「入居間近なので改めて面談をしたい」との連絡が来て、それに先立ち、必要書類(健康診断書、診療情報提供書など)の提出が求められます。面談日時の調整ののち、入居希望者・家族が施設へ行き、施設の担当者との面談が行われ、改めて入居し施設での生活に問題がないか確認が行われます。その後、施設で入居判定に関する会議が行われ、入居可と判定されれば、施設と契約して入居する流れとなります。 施設選びのポイント 施設選びは、施設での生活の質に直結する重要な選択であるため、入念に情報収集し、慎重に選択することが重要です。ここからは、施設選びのポイントを紹介します。 施設の雰囲気を知る 入居する前に施設を見学して、施設内の雰囲気や他の入居者の生活状況を見て、自身の希望に合っているかどうかを確認することをおすすめします。見学の回数は1回だけに限られている訳ではありませんので、(常識の範囲内で)曜日や時間を変えて複数回見学するのも一つの方法です。 月額費用はどのくらいか 施設入居に伴ってかかる月額費用が、自身の負担能力に適うのか確認します。入居した後になって「月額費用を工面することが難しくなった」などの不測の事態を避けるためです。特別養護老人ホームの月額費用は、要介護度によってその額が異なりますが、負担する費用の目安が付きやすいです。詳しくは担当のケアマネジャーに確認しましょう。 職員の接遇は良いか 施設に勤務する職員の接遇態度、利用者に対する接し方などが適切かどうか確認しましょう。特別養護老人ホームは常時介護を必要とする高齢者が入居し、利用者は日常的に介護職員の身体介護を受けています。施設見学の際に、利用者への介助が丁寧かどうか、声掛けの様子や表情などを観察し、適切なサービス品質かどうか確認します。 施設へのアクセスが良いか 施設は交通アクセスが良く、ロケーションが便利な方が良いです。なぜなら、施設が不便なところに建てられていると、家族の面会頻度が減ったり、外出レクリエーションの機会が減ってしまい、生活の質が下がることにつながってしまうからです。 まとめ この記事では、特別養護老人ホームに関する基礎知識から、入所までの手続き方法を紹介・解説してきました。施設選びは、施設での生活の質に直結する重要な選択であるため、入念に情報収集し、慎重に選択することが重要です。要介護度が重度化する前に、今お住まいの地域にどのような特別養護老人ホームがあるか情報収集しておくと良いでしょう。 参考文献 「どんなサービスがあるの? - 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」介護事業所・生活関連情報検索 厚生労働省「人生100年時代における自分らしい晩年そして末期のために -提言-」静岡県ホームページ「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」社保審-介護給付費分科会 第183回(R2.8.27) 資料1 厚生労働省「介護報酬の算定構造」社保審 介護給付費分科会 厚生労働省
2025.02.05
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親の介護が始まった…仕事はどうすれば?介護休業取得の条件は?手続きから給付金まで解説
介護休業とは 介護休業とは、育児・介護休業法に基づいて、労働者が家族を介護するために休業する公的な制度です。厚生労働省は介護休業を次のとおり定義しています。 労働者が、要介護状態(負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族を介護するためにする休業参考:「育児・介護休業法のあらまし」厚生労働省 なお、介護休業中は賃金は発生しませんが、雇用保険の定める一定の要件を満たすときは、申請によって介護休業給付金が支給されます。 介護休暇との違い 介護休業と似た制度に「介護休暇」があります。どちらも家族の介護のために取得できる休暇制度ですが、違いはその長さにあります。次のとおりです。 介護休業 介護休暇 目的対象家族の介護・その準備と、仕事との両立を図るため対象家族の介護と仕事との両立を図るため対象家族配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫同左期間対象家族1人につき93日※3回まで分割して取得可・対象家族1人につき5日/年・対象家族2人以上なら10日/年※時間単位でも取得可要介護認定の要否対象家族が要介護認定を受けていなくても取得可同左給付金の有無雇用保険によって介護休業給付金の取得が可能(要申請)なし 介護休業は介護休暇よりも長期間仕事を休むことができるため、介護やその準備に専念しなければならないようなケースでは介護休業制度の利用が適切です。 取得できる労働者の条件は 介護休業を取得することができるのは、要介護状態にある対象家族を介護する男女の労働者です(例外:日々雇用される労働者)。また、有期契約労働者の場合は、申し出の時点において次の要件を満たすことが必要です。 ・介護休業開始予定日から起算して、93日を経過する日から6ヶ月経過する日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと なお、労使協定により対象外となる労働者は次のとおりです。 入社1年未満の労働者申出の日から93日内に雇用期間が終了することが明らかな労働者1週間の所定労働日数が2日以下の労働者 対象となる家族 介護休業制度における対象家族の範囲は、次のとおりです。 配偶者(事実婚を含む)父母子祖父母兄弟姉妹孫配偶者の父母 事例紹介 どのような時に介護休業を取れば良いのでしょうか。以下、活用するポイントについていくつかの事例をもとに解説します。 事例 状況・内容活用のポイント・メリット Aさん50代女性独身契約社員同居する母親が体調を崩し、要介護状態となったため、1ヶ月の介護休業を取得。・母親の介護に専念できる・Aさんが一部の介護を担うので、介護保険サービスの利用回数を調整できる・母親の状態が良くなれば仕事に復帰できるBさん40代男性妻と娘と同居正社員別居していた父親が認知症で要介護状態。父を介護していた母親が体調を崩したため、2ヶ月の介護休業を取得。両親と一時的に同居し、生活の安定を図る。・離れて暮らす家族を助けることができる・Bさんの登場で母親が療養することができる・母親の状態が良くなり、生活が安定すれば仕事に復帰できるCさん50代女性夫と息子と同居正社員病気で入院中だった実母の状態が悪くなり、終末期ケアに移るタイミングで2ヶ月の介護休業を取得。病院に寝泊まりして母親を看取る。・母親を看取ることができる・母親との最期の時間をともに過ごすことができる・看取りや葬儀が終わって落ち着いたら、仕事に復帰できる 介護休業を活用するポイントは「生活の安定のため」です。介護休業を取得する目的はそれぞれですが、長期的に仕事を休むことによって家族との生活を安定させることができ、その後に職場に復帰することが可能です。 取得できる日数・回数 介護休業を取得できる日数・回数は次のとおりです。 項目内容取得できる日数対象家族1人につき93日間取得できる回数 対象家族1人につき、上記日数を3回に分けて取得可 介護休業を取得する方法 介護休業を取得するには、休業開始予定日の2週間前までに事業主に対して書面で申し出る必要があります。書面の内容は、次の事項を記す必要があります。 申し出の年月日労働者の氏名申し出に係る対象家族の氏名及び労働者との続柄申し出に係る対象家族が要介護状態にあること休業を開始しようとする日及び休業を終了しようとする日申し出に係る対象家族についてのこれまでの介護休業日数 なお、事業主が認める場合には、ファックスや電子メールなどによる申し出も可能です。 介護休業と給与の関係 介護休業中は給与は発生しませんが、一定の条件を満たせば介護休業給付金を取得することができます。 受給要件 介護休業給付金の受給要件は、介護休業を開始した日以前の2年間に、被保険者期間(雇用保険に加入する期間)が12か月以上あることです。ただし、有期雇用契約労働者の場合は、別途要件(後述)がありますので、詳しくは最寄りのハローワークで確認してください。 支給額の算出方法 介護休業給付金で支給される額は、次を掛け合わせて算出します。 休業開始時賃金日額(一日あたりの給与額)支給日数67% 正確な金額はハローワークに提出する雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書により、休業開始時賃金日額が確定し、算出されますので確認してください。 支給額の例 前述の事例に当てはめて支給金額を紹介します。 基本情報、平均給与額支給金額の目安(給付基礎日額×介護休業日数×67%)Aさん50代女性、月額15万円程度月額10万円程度Bさん40代男性、月額30万円程度月額20.1万円程度Cさん50代女性、月額20万円程度月額13.4万円程度参考:「Q&A~介護休業給付~」厚生労働省 手続き方法 介護休業給付金の申請手続きは、原則として事業主がハローワークに対して行います。必要書類は次のとおりです。 1:受給資格確認に必要な書類 内容備考雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書賃金の支払額が証明できる書類出典:「介護休業給付支給申請時の必要書類」ハローワーク豊橋 雇用保険適用課 2:申請に必要な書類 内容備考介護休業給付金支給申請書被保険者が事業主に提出した介護休業申出書の写し住民票記載事項証明書など対象家族の方の氏名、申請者本人との続柄、性別、生年月日等が確認できる書類振込先口座確認資料本人名義の通帳など出勤簿、タイムカード介護休業の開始日・終了日、介護休業期間中の休業日数の実績が確認できる書類賃金台帳、出勤簿など申請書に記載した支給対象期間中に支払われた賃金の額及び賃金の支払い状況、休業日数及び就労日数を確認できる書類出典:「介護休業給付支給申請時の必要書類」ハローワーク豊橋 雇用保険適用課 よくある質問 介護休業をいくつかに分けて取得できる? 介護休業では対象家族1名につき93日間休業でき、計3回に分けて取得することができます。労働者がどのように分割するか決めることができるので、自身のニーズ・状況に合わせて便利に使うことができます。 会社に介護休業を申請したが認められないとのこと。どうすればいい? 先述のとおり、介護休業の対象労働者にはいくつかの条件があります。その条件を満たしていない場合、会社は介護休業の取得を拒否することができます。 例:入社して約10ヶ月しか経過していない など ただし、介護休業と同じような制度に「介護休暇」があります。これは介護休業よりも仕事を休む期間が短いものの、家族の介護と仕事の両立を目指す制度で、こちらを取得できる可能性があります。介護休暇の取得が可能かどうか、勤務先の人事・総務担当者や都道府県労働局に相談してください。 有期雇用の場合でも介護休業給付金の対象となる? 有期雇用労働者でも介護休業を取得することができます。ただし、以下の条件があります。 介護休業を開始した日以前の2年間に、被保険者期間(雇用保険に加入する期間)が12か月以上あること介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6か月を経過する日までに、その労働契約が満了することが明らかでないこと まとめ この記事では、介護休業の概要を説明するとともに、具体的な事例を交えながら、介護休業の取得条件や、申請・利用方法について解説してきました。介護休業は、家族の介護と仕事の両立を目指すことのできる便利な制度です。家族の介護に直面しても、すぐに退職することなく、適切な介護保険サービスの利用をしながら、両立できる方法を検討しましょう。 参考文献 「「介護休業」を活用し、仕事と介護を両立できる体制を整えましょう。」厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」厚生労働省「Q&A~介護休業給付~」厚生労働省「介護休業給付支給申請時の必要書類」ハローワーク豊橋 雇用保険適用課
2025.01.28
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介護休暇の基本!知っておきたい制度と手続きの方法について解説
介護休暇とは 介護休暇とは、育児・介護休業法によって定められている休暇で、労働者が家族の介護などを理由に短期的な休暇を取ることができる制度です。年次有給休暇とは別に取ることができます。次のようなシーンでの利用が期待されています。 配偶者の介護(食事、入浴、排泄などの身体介助)のために休みがほしい親の通院に付き添うため午前中の休みがほしい親の要介護認定があるので、それに同席したい など 上記のとおり、対象家族への直接的な介護だけでなく、医療や介護の諸手続きなどの理由でも取得することが可能です。この休暇を利用することで、仕事と介護の両立を図り、介護離職を防ぐことが期待されます。 介護休暇と介護休業の違い 介護休暇に似た制度に「介護休業」があります。介護休業は、介護休暇と同じく家族の介護のために取得できる制度ですが、より長く仕事を休むことができます(詳しくは別記事にて説明します)。両者の違いは次のとおりです。 介護休暇介護休業目的対象家族の介護と仕事との両立を図るため対象家族の介護・その準備と、仕事との両立を図るため 対象家族配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫同左期間・対象家族1人につき5日/年・対象家族2人以上なら10日/年※時間単位でも取得可対象家族1人につき93日※3回まで分割して取得可要介護認定の要否対象家族が要介護認定を受けていなくても取得可同左給与との関係原則、発生しない原則発生しないが、申請すれば介護休業給付金を取得可。 介護休暇は取得できる日数が年間5日間/人に限られていますが、介護休業は93日間/人で、最大3回に分けて取得することができます。介護やその準備に専念しなければならないような場合であれば、介護休業を利用して仕事を長期間休む方が適切です。 取得できる労働者は 取得できる労働者は、対象家族(後述)を介護する労働者です(日雇い労働者などは対象外)。ただし、労使協定があって次のケースでは介護休暇を取得できない場合があります。 勤続6ヶ月未満の労働者(※2025年4月1日からこの要件は廃止される予定)週の所定労働日数が2日以下の労働者半日単位で介護休暇を取得することが困難と認められる業務に従事する労働者(※1日単位での申出は拒めない)1日の所定労働時間が4時間以下の労働者は、半日単位での取得はできない。 ご自身が対象となるかどうか分からない方は、勤務先の人事・総務の担当者へご確認ください。 対象となる家族 介護休暇の対象となる家族は、次のとおりです。 配偶者父母子配偶者の父母祖父母兄弟姉妹孫 なお、対象家族との同居・別居は問われません。配偶者は内縁関係(事実婚)も含みますが、子の範囲は法律上の親子関係がある子のみです。 事例紹介 介護休暇はどのような時に取れば良いのでしょうか。以下、いくつかの事例をもとに、活用するポイントを紹介します。 Aさん Aさん(55歳・男性)は、不動産販売会社に正社員として勤務しています。家族は専業主婦の妻、高校生の娘が1人います。 対象家族の状況 離れて暮らす母親が2年前に肺炎を患い、退院したあと、外出や買い物で介助が必要となりました。これまでは妻が母親を定期的に訪問していましたが、体調を崩してしまったため、Aさんが代わりに訪問して介護することになりました。 介護休暇の取得へ 早速、Aさんは職場の上司に相談しました。上司は仕事に支障がないように業務分担などの対策を取り、介護休暇を取りやすい環境・雰囲気を作ってくれました。結果、介護休暇の取得が認められ、日程調整もスムーズに進み、規定の書式を使って総務課へ申請し、翌日・翌々日の2日間休暇を取ることとなりました。 Bさん Bさん(45歳・女性)は、実父と高校生の息子との3人暮らし、スーパーマーケットでパートタイム勤務をしています。勤務は今年で6年目を迎えました。 対象家族の状況 実父が軽い認知症を患い、介護保険制度の要介護認定を受けるため市町村へ申請を行いました。その後、役所の担当者から連絡があり、約1週間後に自宅で訪問調査が行われることになりました。Bさんはこれに同席するため、介護休暇を取りたいと考えました。 介護休暇の取得へ Bさんが勤務先に相談すると、店長が他のパートタイム従業員とシフトの調整を行い、介護休暇が1日間取得できるよう段取りしてくれました。申請は口頭で行われ、取得が認められました。 Cさん Cさん(27歳・男性)は、実母との二人暮らしで、自宅近くのコンビニエンスストアで週に2日間アルバイト勤務して、約3ヶ月が経過しました。 対象家族の状況 同居する実母の体調が悪くなり、通院に付き添うことになりました。しかし、その日はアルバイトのシフトが入っていることから、介護休暇の取得を申し出ました。 介護休暇が取得できない? 事業主は繁忙期であることと、Cさんの週の所定労働日数が2日以下であることを理由に拒否しました。結果としてCさんは介護休暇を取得できなかったため、シフトを調整し、通常の休みを取ったうえで通院に付きそうこととなりました。 取得できる日数・単位 介護休暇を取得できる日数・単位は次のとおりです。※毎年4月1日から翌年3月末まで(事業主による定めが特にない場合) 項目内容取得できる日数対象家族が1人の場合は、年5日まで対象家族が2人の場合は、年10日まで取得できる単位1日または時間帯で取得可 このように、労働者は日単位・時間単位どちらかを選んで介護休暇を取得することができます。休暇の目的や、対象家族の心身状況によって自由に選び、便利に使うようにしましょう。 介護休暇と給与の関係 介護休暇と給与との関連については、法律上の定めがありません。また、介護休業給付金のように公的な現金給付がある訳ではありませんので、多くの場合は無給となります。人によっては介護休暇ではなく有給休暇を取った方が金銭的にはメリットがあります。状況に合わせて、不利益がないよう判断しましょう。 介護休暇を取得する方法 介護休暇を取得するには、勤務先・事業主への申請が必要です。手続き方法は、書面の提出に限定されておらず、口頭での申し出も可能です。ただし、勤務先で規定の書式や添付書類が定められている場合がありますので、担当部署へ前もって確認しておき、それに則って手続きを行うと良いでしょう。 よくある質問 ここからは、介護休暇に関するよくある質問(Q&A)を記します。抱えがちな疑問点の解消に役立ててください。 介護休暇を取りにくい。どうしたらいい? 介護休暇は国が定めた労働者の休暇です。申請のあった事業主は、これを拒否したり、期日を変更したりすることはできません(労使協定などによって拒否できる労働者は除く)。介護休暇を取ることが仕事場に大きな影響がないように、できる限り日時調整や業務分担を行うなどの工夫をしましょう。 介護休暇と看護休暇の違いは? 介護休暇と看護休暇は、いずれも労働者に与えられた休暇ですが、対象家族・取得理由が異なります。違いは次のとおりです。 介護休暇:親・祖父母などの対象家族の介護のための休暇看護休暇:小学校就学前の子どもの通院、看護のための休暇 取得できる日数は、いずれも家族1人につき年間5日間で、時間単位での取得も可能です。 対象家族の要介護状態とはどのような状態を指す? この制度での要介護状態とは、次のとおり定義されています。 ケガや病気などで2週間以上の期間にわたり常時介護が必要な状態 介護保険制度の要介護認定を受けているかどうかは問われず、非常に使いやすい制度であるといえます。 介護休暇を取れない場合はどうする 介護休暇を取れない場合は、どのようにしたら良いのでしょうか。主な理由とともにその対処法を解説します。 取得しにくい雰囲気がある 勤務先の責任者や、人事・総務の担当者に対し、介護休暇は労働者に与えられた権利・休暇である旨を伝えて、取得できるよう交渉してください。それでもなお、取得が難しい場合は、次の相談機関を利用しましょう。 勤務先の相談窓口都道府県労働局地域包括支援センター など 勤務・シフト調整が難しい 勤務・シフトの調整が難しい場合は、できる限り早く介護休暇を取る日程を勤務先に伝え、調整のための時間的ゆとりを作りましょう。また、休暇を取ることで仕事・業務に大きな影響がないよう、申し送りが十分にできるような工夫が必要です。介護休暇を取る側と、取得する人をフォローする労働者が、互いに気持ちよく過ごすことができるような配慮が、事業主に求められます。 まとめ 介護休暇は労働者が仕事と介護を両立するために設けられている制度です。便利に使って、家族への介護をしながら、仕事を継続できるようにしましょう。家族だけで介護することが難しい場合は、担当のケアマネジャーに相談しつつ、この記事で紹介したサービスを組み合わせて便利に利用し、無理なく自宅での生活が続けられるようにしましょう。 参考文献 「介護休暇等に関する参考資料」厚生労働省「通院の付添いなどで短時間の休みが必要な時は、「介護休暇」を活用しましょう。」厚生労働省「「介護休業」を活用し、仕事と介護を両立できる体制を整えましょう。」厚生労働省
2025.01.14
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要介護認定の申請から結果通知まで ~手続きの流れを詳しく解説~
要介護認定とは 要介護認定とは、歳を取って身体が動かなくなり、認知症によって生活に支障が出た場合、どの程度の介護を必要とする状態なのか、行政がそのレベル(要介護度)を認定するしくみです。介護保険サービスの利用に先立ち行われるもので、この認定を受けなければ、介護保険制度のサービスを利用することができません。一連の手続きは全て無料で行われ、本人・家族が費用を負担することはありません。 要介護度 要介護度とは、介護が必要な状態になった人がどの程度の介護を必要とする状態なのか、そのレベルを数値化したものです。要介護度は、状態の軽い順から「自立」「要支援1・2」「要介護1~5」に分かれており、高齢者の身体や認知能力に応じていずれかに判定されます。ざっくり分けると次のとおりです。 種類内容自立 自分の力で歩いたり、起き上がったりすることができる。また、目的に合わせて人と会い、コミュニケーションを取るなど人の手を借りることなく、自立した生活を送ることができる。要介護状態とはいえない。要支援1・2ご飯を食べたり、お風呂に入ったり、トイレをしたりすることは自分の力でできるが、起き上がりや立ち上がりが不安定なので、後ろで支えたり、手を引いたりするなどの介助が必要。また、電話するときは代わりに番号を押す、買い物の際にはお財布からお金を出してあげるなどの支援が必要な状態。要介護1~5食事、入浴、トイレなどの日常生活だけでなく、電話、薬の管理、調理などの場面で、全部または一部(例:トイレ時のズボンの上げ下ろし、適量の薬を準備する、本人に代わって包丁で切るなど)の介助が必要な状態。要介護5が最重度となり、介護がなければ生活を送ることは難しい。 なお、基準は全国一律で定められており、国内のどこに住んでいようと同じ基準で調査・判定が行われます。 要介護認定の申請方法 要介護認定の申請は、どこでどのようにすれば良いのでしょうか。以下、申請先とその方法を紹介します。 要介護認定の申請先 要介護認定の申請先は、お住まいの市町村の窓口です。申請先窓口の名称は自治体によって異なりますが、よくあるものとしては「高齢者支援課」「介護保険課」などがあります。 申請を行う人 申請は本人が行うことを原則としますが、入院中などの事情で申請が難しいときは、家族などが代理で申請することもできます。 申請に必要な書類 要介護認定の申請に必要な書類は次のとおりです。 要介護認定の申請書介護保険の被保険者証申請者の身分証明書マイナンバーを確認できる書類委任状(代理申請の場合) など 自治体によって必要書類が異なるため、申請する前にあらかじめ窓口へ問い合わせると良いでしょう。 申請からサービス利用までの流れ 申請したあと、どのような流れで審査・判定が行われ、サービス利用までにどのくらい時間がかかるのでしょうか。ここからは、申請からサービス利用までの流れを整理して解説します。 訪問調査 訪問調査とは、市町村の担当者が申請した方の自宅を訪問して行われる聞き取り調査です。申請した方の身体能力や認知能力のレベル、持病や障害があるか、日常生活上の課題があるかなど、一定の項目においてチェックが行われます。所要時間は約1時間で、担当者の質問に答えたり、その指示に応じて身体を動かしたりします。また、必要に応じて同居する家族が代わりに回答することもあります。調査にあたって、本人や家族があらかじめ準備するものは特にありません。ただし、日常生活において気になることがあればあらかじめ書き出しておき、担当者に正確な情報として伝えると良いでしょう。 主治医の意見書を作成 申請者の主治医に対し、市町村が意見書の作成を依頼します。意見書には、本人の心身の状況や、病気やケガがあるか、障害があればその状態が書かれています。なお、主治医がいない場合は、新たに医療機関を受診して、主治医となる人を決める必要があります。 一次判定 市町村の担当者が、訪問調査で得られた情報をコンピュータへ入力し、介護を必要とするレベルが自動的に算定されます。これを一次判定といいます。ただし、これはあくまでもコンピュータの「ものさし」で自動的に算定されたもので、仮判定という扱いです。次の二次判定に必要な情報として引き継がれます。 二次判定 一次判定の結果と主治医の意見書がそろってから、二次判定が行われます。二次判定は、市町村が設置している介護認定審査会が行い、その結果が最終結果となります。介護認定審査会とは、医療や介護分野の専門家(例:医師、看護師、保健師、社会福祉士、介護福祉士など)が集まり、一次判定の結果が妥当なのか、その内容を審査する機関です。会議では、申請した方の心身状況を踏まえたうえで、 自立要支援1・2要介護1~5 のどれに当てはまるのか、専門的な視点から協議してその妥当性を判定します。一次判定の結果よりも重くなったり、軽くなったりすることがあります。 結果の通知 二次判定の結果は、申請した日から1ヶ月以内に申請者へ郵送で通知されます。「自立」と認定された場合は、要介護状態ではないということになり、原則として介護保険サービスを利用することはできません。 ケアプランの作成 二次判定で要支援1・2、要介護1~5のどれかに判定されたら、ケアプランの作成を介護支援専門員(以下、ケアマネジャー)に依頼します。ケアプランとは、本人や家族の抱えるニーズ、生活上の課題を聞き取ったうえで作成される介護サービスの利用計画書のことです。次の内容が記載されています。 生活上の目標、支援方針介護サービスの種類、回数、量これまでの相談内容、事業者との連絡内容負担する割合、額 など なお、ケアプランは本人や家族が作成することも可能です。しかし、作成には事務的な手間がかかり、専門的な知識を要するため、ケアマネジャーに依頼するのが一般的です。 サービス担当者会議 作成されたケアプランの原案をもとにサービス担当者会議が開かれ、最終的な調整がおこなわれます。サービス担当者会議は、担当のケアマネジャーが主催するもので、本人・家族、介護サービスを提供する施設の関係者などがこれに参加し、プランの内容を共有するとともにサービス利用の事前打合せを行います。 サービス利用 サービス担当者会議ののち、介護サービス提供事業所と契約を交わしてサービス利用をスタートします。介護サービスを利用した場合、費用の1割(所得によっては2~3割)を負担しなければなりません。契約からサービス利用まで滞りがないように、ケアマネジャーが適切な支援・助言をしてくれるので、遠慮せずに依頼しましょう。また、サービスの利用中に困ったことがあれば、ケアマネジャーに相談することもできます。 要介護度ごとのおすすめのサービス ここでは要介護度ごとにどのようなサービスがおすすめなのか、3つの事例を紹介します。ご自身に最も近いものを当てはめて、どのサービスが適切なのか検討してみてください。 Aさん70代男性、妻と2人で暮らす。要支援1と判定。日常生活動作にやや衰えが見られ、年相応の物忘れがある。これ以上、心身状況を悪化させないために、介護予防を中心としたサービスがおすすめ。適切な介護サービスの例:介護予防通所リハビリテーション、介護予防福祉用具貸与など Bさん80代女性、一人暮らしだが近隣に娘が住んでいる。要介護2と判定された。日常生活では、食事では調理し配膳する、トイレではズボンの上げ下ろしをするなどの一部の介助・見守りが必要。立ち上がりや片足での立位保持が難しく、歩行などに杖や歩行器が必要。軽度の認知障害があり、直前の会話や行動を覚えていないことがある。適切な介護サービスの例:訪問介護、デイサービス、ショートステイ、グループホーム、住宅改修など Cさん90代女性、夫と二人暮らしだった。要介護4と判定。重度の認知症を患っており、認知機能・身体機能の低下が見られ、多くの時間を寝たきりの状態で過ごす。食事、入浴、排泄は一人では難しく、多くの場合介助が必要。歩行や立位保持も難しい。意思の伝達がほとんどできない場合が多い。適切な介護サービスの例:特別養護老人ホームなどの施設サービス よくある質問 ここからは、要介護認定に関するよくある質問を紹介します。 認定結果に不満がある場合 判定された要介護度に不満がある場合、まず担当のケアマネジャーに相談しましょう。それでも納得がいかない場合は、都道府県に不服申立てをすることができます。期限は、判定の通知を受け取って2ヶ月以内と定められているため、注意しましょう。 訪問調査の際は家族の同席は必要か 家族の同席は必須ではありませんが、必要な情報を担当者へ伝えることが正確な判定につながるため、できる限り同席するようにしましょう。 認定の有効期間はあるのか 判定された要介護度には有効期間があります。次のとおりです。 新規申請の場合:原則として6ヶ月更新認定(要介護度を更新する)場合:原則として12ヶ月 一度決まった要介護度は、そのまま変更されないということはありません。必要に応じて更新認定を行い、現在の心身状況を評価・判定してもらうようにしましょう。 要介護度を変更したい場合は 要介護認定のあとに、本人が大きな病気や事故に遭い、心身状況に著しい変化があった場合には、有効期間よりも前に区分変更申請をすることができます。次のような例です。 Dさん80代女性、息子と二人暮らし。初めて要介護認定を受けたときは要支援2と判定されたが、その後、脳梗塞を発症して入院した。急性期の治療後、リハビリテーションを経て自宅に復帰したものの、後遺障害として右半身に麻痺が残った。区分変更申請担当のケアマネジャーに相談して区分変更申請を行った結果、要介護2と判定された。これまで以上に介護サービスを利用し、自宅での生活が継続できるように工夫している。 まとめ この記事では、要介護認定の内容や流れについて解説してきました。要介護認定は介護保険サービスを利用するために必要な調査で、どの程度の介護を必要とするのか数値化するしくみです。自身の要介護状態に合った判定をしてもらったうえで、ニーズに適った介護サービスを利用するようにしましょう。分からないことがあれば、担当のケアマネジャーや、地域包括支援センターなどの公的な相談機関を利用すると良いでしょう。 参考文献 「サービス利用までの流れ」介護事業所・生活関連情報検索 厚生労働省「公表されている介護サービスについて」介護事業所・生活関連情報検索 厚生労働省一般社団法人日本ソーシャルワーク教育学校連盟=編集(2021)『最新 社会福祉士養成講座 高齢者福祉』中央法規
2025.01.07